トレンディ(死語)に見えて真面目。C5 エアクロス SUVは骨太のシトロエンだった

C5 エアクロス SUV

シトロエンが放つミドルクラスSUV、C5 エアクロス SUV。2019年5月に日本での発売が開始されたが、それに先駆けフランス在住のライター南陽一浩氏が試乗。日本導入モデルは2リッターディーゼルのみだが、本国ではガソリンモデルもラインアップされている。両エンジンの違いも含めて、C5 エアクロス SUVの本国での試乗レポートをお届けする。

あの独特な乗り心地が帰ってきた?!

シトロエンらしい乗り心地といえば、柔らかく鷹揚なバウンスであらゆる衝撃を受け止めつつ、いざ攻めても意外なほどの粘り腰、そんな独特のライド感がある。それは、粘っこい液体の感触そのままの、ハイドロニューマティックという独特のサスペンション形式に拠るところが大きかった。当初はステアリングやブレーキ、トランスミッションまでもひとつの油圧回路で繋がっていたその仕組みは、欧州の型式認証ルールが変わって以来、もはや新車に使うことはできないが、シトロエンが「ハイドロ」を諦めていないというウワサはずっとあった。

C5 エアクロス SUV 白線内の任意の位置を指定して走行することができる「レーンポジショニングアシスト」。車線のやや左寄りや右寄りなど、ドライバーの好みで走行位置を選ぶことができる。シトロエンを含むPSAグループだけの機能だ
C5 エアクロス SUV 欧州カヤバと共同開発したPHC(Progressive Hydraulic Cushions)。ダンパー内にセカンダリーダンパーが追加されたもので、サスペンションのストロークスピードが遅い状況や細かく小さく動く状況では、減衰力が小さく非常にソフトな乗り心地に。いっぽうでサスペンションが大きく動く状況では、セカンダリーピストンとシリンダーによる減衰力で、スムーズに衝撃を吸収する。

かくして採られた解が、PHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)と呼ばれる、ダンパー・イン・ダンパーだ。筒内のオイルに圧を加える通常のダンピング動作だけでなく、フルボトム近くでインナーダンパー筒内のオイルの流れを制限し、限界域での減衰力をさらに高める。これまでもあった技術だが、C5エアクロスの前車軸側のそれは、欧州カヤバと共同開発し、伸び・縮み双方向ともダンパーインダンパーとしたことが新しい。その目的はもちろん、ハイドロならではの粘り強いストローク感をダンパーだけで再現することだったのだ。

優しく家族を包み込むC5 エアクロス SUVを写真でチェック

足回りだけではないシトロエンのおもてなし術

C5 エアクロス SUV アドバンスコンフォートプログラムのひとつであるシート。ソフトに包み込みつつ、確実に身体をサポート。前席は8つのエアバッグにより5パターンのマッサージ機能を備えている。ナッパレザーパッケージ(36万円・税込み)
C5 エアクロス SUV 後席は均等な3座のスペースを備える。前後に150ミリのスライド幅をもち、バックレストは19度~26.5度の範囲で5段階の角度調節が可能となっている。

いわばコンフォート至上主義のSUV、それがC5 エアクロス SUVの存在理由だ。柔らかいのは足回りの感触だけでなく、「アドバンス・コンフォート」と呼ばれ、緩衝材の最適化やマッサージ機能やシートヒーターを備えた前列シートにも及ぶ。フルデジタルのメーターからレザーの張り巡らされたダッシュボードの質感もすこぶる高く、柔らかな素材に包囲される感覚はさながら「仏流のおもてなし」といったところか。

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