ウーバー競合「リフト」がサステナビリティを重視する理由

MAGE: MIKE MASSERMAN, LYFT

ウーバーテクノロジーの競合企業リフト(Lyft)。配車サービスの大手企業として、同社はどのようにバリュー主導の経営で企業価値を生み出しているのか。リフトでソーシャル・インパクト部門の責任者を務めるマイク・マッサーマン氏に話を聞いた。(翻訳=梅原洋陽)

マッサーマン氏は、リフトのポジティブ・インパクトに関する取り組みから同氏がサステナビリティに興味を持ったきっかけ、そして、若い世代に対して行なっている活動について語った。

米国Sustainable Brands編集部(以下、SB):今、最も力を入れて取り組んでいるプロジェクトはなんでしょうか。

マイク・マッサーマン: Lyft City Worksが行なっているプロジェクトです。3月の新規株式公開(IPO)に合わせて始めた、移動手段のインフラ整備やクリーンエネルギーの開発など根本的な移動手段改善のための取り組みは、都市にさまざまなポジティブな影響を与えるものだと思います。各都市のドライバー、乗客、コミュニティのリーダーや、市民活動団体と一緒にプロジェクトを進めていることも重要な点です。

特に、カリフォルニア州オークランドにあるNPO「Transform」との連携に期待しています。自転車やスクーターを、今までさまざまな配車サービスが受けられなった地域に配備することができそうです。

他にも、食品事業「Lyft Grocery Access Program」では、人々が健康的な食品により簡単にアクセスできるようにしています。約2,350万人もの人々が、近所に生鮮食品店がない地域に住んでいます。食料品を買いに行くための交通手段を手に入れることは、家族にとって大きな助けになると思います。この新たなプログラムを今年の初めにワシントンD.Cで始めました。今後はアメリカのさまざまな場所で展開していく予定です。

デトロイトで始めた新たな取り組みにSisterFriendsというものもあります。市の保健局と連携して、女性の妊婦健診や母親教室に通うための交通手段を無料で提供しています。デトロイトはアメリカ国内で最も乳児死亡率が高く、出生前検診への移動手段があることは、死亡率を下げる重要な要素だと分かっています。

バリュー主導の経営が企業価値を生み出す

SB: 社会的、環境的なイノベーションを起こすことは、会社にとってどのような利益となっているでしょうか。

マイク・マッサーマン バリュー主導の経営が企業価値を生み出すことに繋がると確信を持っています。さまざまな研究結果が、このことについて示しています。

例えば、コーン/ピーターノベリのパーパスに関する研究では、78%のアメリカ人は「企業は利益を上げる以外のこともすべき」と考えていると報告しています。つまり、社会に良い影響を与えるべきだと。77%の人たちは、今までの伝統的な企業より、パーパス主導の企業に好意的に繋がりを感じます。

実は、私たちの社内でも同じようなことが起きています。リフトに就職した理由、そして現在もリフトで働いている理由について、97%の従業員はバリューと、社会的影響力を挙げています。

社会的、環境的なイノベーションはリフトのDNAです。リフトのミッションは、「世界最高の交通手段で、人々の生活をより良くする」です。そのため、私たちが展開する都市の社会・経済・環境により良い影響を与えることは、私たちの成功の定義そのものなのです。

Lyft City WorkのIPOはまさにこのミッションを明らかにしました。リフトは単に公の会社になっただけでなく、公共の利益を重視した公の会社になったのです。

SB: リフトのサステナビリティ事業に携わろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

マイク・マッサーマン:私はサーフィンやハイキングをして育ちました。外にいることが大好きです。気候変動が私たちの地球にとっての最大の危機であり、全ての人が何かしらのアクションを起こす責任があると思っています。この会社の創設者は気候変動対策にとても意欲的です。昨年、リフトが100%カーボンニュートラルになると決断をしたこともとても誇りに思っています。

カーボンニュートラル以外にも、サステナビリティのための包括的なさまざまな取り組みをしています。電気自動車に投資したり、公共交通機関と私達のアプリを連携させたり、リフトの自転車やスクーターを国中に広めることなどもそうです。

私は人生の大半を都市で過ごしてきたので、車ではなく人を中心に、そしてより住みやすい都市づくりをするというビジョンを素晴らしく感じています。リフトには、一世代に一度しかないようなチャンスがあります。私達が住みたいと思う街をつくることができる機会はとても刺激的です。

SB: マッサーマンさんご自身のまだ世間にあまり知られていない活動や、過去の経験などはありますか。

マイク・マッサーマン: 実は、子ども向けの本を書いています。兄弟と一緒にChasing It Allという出版社を昨年立ち上げ、『Chasing The Sun』という本を書きました。ティキという名前の亀が、太陽はどこに沈むかを確かめるために島を旅するお話です。この本は気候変動について触れつつ、人生と言う旅を楽しむ重要性を伝えています(ネタバレですが、彼は太陽を見つけられません……)。 ちなみに、出版してから数ヶ月の間、Amazonの子ども向けの亀の本ランキングで1位でした。

公民の授業から、社会を変えたい

SB: もし、無限の時間や資源があったら、どのようなことをSBの他の会員企業と一緒に行いたいですか。

マイク・マッサーマン: 公民の授業を改訂し、実施したいです。オバマ政権下で働いていた時に、オバマ大統領は一般教書演説の最後には常に公民権についての話をしていました。驚くほど多様なバックグラウンドを持つ人達が集まり、ほぼ全てのことに関して合意には至りませんが、コミュニティを大切にし、市民社会について話し合い、問題解決に取り組める方法はあると思います。

私の祖父は世紀の変わり目にウクライナからジャーナリストとしてアメリカに来ました。彼は政治的な活動にとても積極的でしたが、政治的なディスカッションを公平な視点で行える人でした。

例えば「あなたが言ったこと全てに反対ですが、貴重な時間をこの会話に費やしてくれてありがとうございました。そして、あなたの意見から新たな考え方を学びました」と言える人でした。近年の私達の社会にはこのような、礼儀正しさが欠如しています。何かしらの形でこの現状を変えたいと思っています。

そして、最近友人と新たなROI(費用対効果)についての考え方を話し会いました。かなり長くなってしまうので、またの機会にお話をさせてください。

SB: リフトが、サステナブル・ブランドの会員メンバーネットワークに参加する意義について教えてください。

マイク・マッサーマン: 社会に良い影響を与えるということに関して経験値があまりない私にとって、他の人から何が上手く行き、何が失敗したかを学べることはとても価値があります。そして、サステナビリティのような必ずしも誰もが重要視をしている訳ではない領域で、どのように活動していけるかを学べています。

まだまだやることが多い私たちは、自分たちだけで話し合うだけでなく、外にメッセージを広げることがとても重要です。このクリエイティブで先進的なネットワークはそれぞれの役割においてできることを増やし、お互いを刺激しあえる素晴らしい場所です。

SB: SBの会員企業メンバーに伝えたいことはありますか。

マイク・マッサーマン: このような仕事に取り組める私たちは幸運です。正しく、意義のあるバリューを軸に活動していき、お互いに責任を持って取り組んでいく必要があります。

私たちは、広い範囲に持続可能な影響をもたらすソーシャル・インパクトについて再考することができる機会を手にしていると思います。SBのプラットフォームを使うだけでなく、私たちの考えをしっかりと主張し、今の社会に必要な変化を起こしていきましょう。

最後に、私たちは可能な限り大きく深呼吸をして、外に出て、自分の冒険を楽しむべきです。私の本『Chasing the Sun』を読めばわかりますよ!

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