「孚」も「浮」も

 「孚(ふ)」という漢字は、親鳥が爪でわが子を守る姿を表し、「はぐくむ」の意味がある。「さんずい」が付けば「浮」となり、水中に沈んだ子を水の上から救おうとするさまであると、字典「常用字解」(平凡社)にある▲爪で子どもを守るのが「孚」ならば、爪で子どもを痛めつける仕業を何と呼ぼう。札幌市で2歳の女の子が衰弱死し、傷害容疑で母親と交際相手が逮捕された事件は、知るほどに胸が詰まる▲その子の体にはたばこのやけど痕があった。殴られたとみられるあざもあった。痩せ細っていた。ろくに食事を与えられなかった可能性がある▲市の児童相談所には2回にわたり虐待の通告があったが、「虐待はない」と判断していた。2回目の通告があった際には「48時間以内に子どもの安全確認をする。それができなかったら立ち入り調査する」というルールを児相は実行していなかった▲その「48時間ルール」は昨年、都内であった女児虐待死事件を受けてできたのに、教訓がなかなか生かされない。道警と児相の対応もどうやらかみ合っていなかった▲「はぐくむ」の「孚」だけでない。子どもの命を第三者が救う「浮」の文字も見失われていないか。もっと早ければ、もっと注意していれば、もっと手を携えていれば。幾たび嘆き、悔やんだことだろう。(徹)

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