秘湯と言われていた山梨県の「ほったらかし温泉」は、その絶景がSNSで拡散されたことも手伝って、年間45万人以上が訪れる一大人気スポットになりました。
多くの人が温泉の楽しみを体験できることは素晴らしいことですが、ほったらかし温泉に元々通っていた方からは、秘湯感が損なわれたという声も聞こえてきます。
「インディーズ時代から知ってたよ」「メジャーになって変わった」という事はどんなものでも言われるようです。
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そんな方のために、温泉ソムリエの資格を取得した私ツバキングが、都内から90分ほどで到着できるにも関わらず、年間客数30人未満ともいわれる秘湯オブ秘湯をご紹介いたします。
向かうのは、千葉県南部の館山市にある「正木温泉」。
まず、現地以外に看板は出ていないので、田園風景の中をGoogleマップと首っ引きになって向かいます。「目的地周辺です」というスマホの声で案内が終了した場所にあるのがこちら。
「ほぼ廃墟」です。本当にやっているかさえわからない上に、ご覧の佇まいなので、扉を開くのにとんでもない勇気がいります。
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中に入ると、隣がふつうの住宅の居間になっていて、ここを管理している家主のおじいさんが、顔にたかるハエをハエたたきで払いながら大音量でテレビを見ています。扉を開ける際にかなりの音がしたはずなのに、気づいていない様子。
「すいませーん」
まるで、声が全て空中に吸い込まれているかのように、おじいさんの耳には届きません。おじいさんは、とても耳が遠いのです。「大きめ」程度の声では届きませんので、500m先にいる人を呼ぶほどのレベルの大声で叫びましょう。
「すいませーーん!!!」
すると、おじいさんは振り向いてこう応えてくれます。
「アァッ!?」
これはチンピラのアァッ!? ではなく、志村けん扮するひとみばあさんの「アァッ!?」です。
「お風呂に入りたいんですけど!」
「アァッ!? あんだって!?」
「お! 風! 呂! お風呂! 入りたいんですけど!!」
「風呂!? 風呂か、あぁ」
これ、全く志村けんに寄せていません。ノンフィクションのやりとりです。
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手作りの料金箱に代金を入れようと思いますが、書き直され過ぎて一体いくらが正しいのかわかりません。値段を聞いてみると、やはり先ほどと同じようなやりとりとなり、結局きけなかったので、1番大きく書いてある値段を投入します。
そこから風呂場へは、これまでよりも大きな勇気が必要です。全てがDIYで軋む床と、課金しないと登場しないんじゃないかと思わせるほどのダンジョン感。
そうしてやっとたどり着くのが、正木温泉なのです。
お湯は、含硫黄-ナトリウム塩泉で、泉温が17度であるために、温泉ではなく冷鉱泉となっています。湯船はきちんと加温されていて41度ほど。
東京湾岸でよくみられる黒湯ですが、成分がめちゃくちゃ濃く、海由来の温泉らしいモール臭もしっかりします。
浴場も壁から天井まで全てがDIYなので、隣室の大音量のテレビ音声がハッキリと聞こえ続けます。そして、反対側の壁の向こう側からは数分おきに「モーーーー!」という、かなりのサイズであることが想像できる牛の声。
館内(と呼ぶには違和感がすごい)には、各所に手書き看板が掲げられていますが、ほとんど解読不可能。その中には、法律で定められた温泉分析書もしっかりと貼り出されているので、さまざまな不安が若干拭えます。
秘湯に行きたい方は、ぜひお出かけください。ただし、マジで上級者向けです。(Mr.tsubaking連載 『どうした!?ウォーカー』 第35回)
■正木温泉
千葉県館山市正木3027
9:00〜21:00
年中無休