初代スープラはラグジュアリーGTカーだった!? 新型スープラが“ピュアスポーツカー”になるまで

歴代スープラ

初代から新型スープラまでの系譜を辿ると面白い! 確かに新型スープラは“スープラ”だった

2019年5月17日、5代目となる新型スープラが発売された。初代スープラがアメリカで発売されたのは40年以上前の1978年であり歴史は長い。ちなみに日本では1,2代目の車名はセリカXXであり、1986年の3代目からスープラの名で発売している。スープラがスポーツカーとして、どのように純度を上げていったのか。そして初代から5代目までの系譜を辿っていくと『80スープラ(4代目)と5代目の新型スープラは別物だ!新型は“スープラ”じゃない』という認識も変わってくるかもしれない。

初代 A40型/50型(1978年-1981年)日本名セリカXX

トヨタ セリカ・スープラ(1代目 1979-1981)/日本名 セリカXX SEMAショー2018

1978年に登場した初代スープラ(A40/50系)は、2代目セリカのフロントノーズを延長し直列6気筒エンジンを搭載して発売。一方、日本ではセリカXXとして発売されたが、アメリカでは成人向け映画などの過激度ランクをXの数で表現していたので、XXは今で言うところの「R18」という感じらしく、北米ではスープラという名に変更されたという経緯を持つ。

長らくスポーツカー市場を独占していた日産 フェアレディZの対抗馬として、米国トヨタの要望から誕生したと言われている。フェアレディZは北米市場でのニーズに適合させるために開発され、扱いやすいエンジン特性と大きい荷室を備えるなど、実用性がありながらも美しいスタイリングを持つことで人気を博していた。

そういった背景から、初代スープラも『スポーツカー』と言うよりも『ラグジュアリーGTカー』と言う立ち位置のモデルだった。そのコンセプト通り、標準のセリカをベースにしながらも、全長、全幅を拡大したボディを採用し、実用性を高め豪華な装備を加えた、セリカ上級モデルとして登場した。

トランスミッションは標準の5速MTの他に4速ATの選択も可能で、パワステ、チルトステアリング(ハンドル位置を上下に調整できる機構付きのハンドル)、ディスクブレーキ、アルミホイール、AM/FMステレオラジオを標準装備。さらにオプションとしてクルーズコントロール、オートエアコン、パワーウィンドウ、パワードアロックに加えて、本革仕様のインテリアが用意されており、当時の最新かつ最高の装備を備えたフラッグシップと呼ぶに相応しいクルマだった。

2代目 A60型(1981年-1986年)

トヨタ スープラ(2代目 1982-1986)/日本名 セリカXX SEMAショー2018

1981年に登場した2代目スープラは、セリカの上級モデルという立ち位置は不変ながらも、スポーティ路線へ変更。初代のラグジュアリーなコンセプトは同時期に発売したソアラに譲っている。ちなみに日本ではセリカXXの名を継続するが、 米国では「セリカ」の名称が外されている。

写真で見ても分かるように、初代のラグジュアリーな重厚感とは方向性が一転している。“当時のスーパーカーライト”であったリトラクタブルヘッドライトを採用し、空力を意識したことがわかるシャープな印象になった。さらに幅広なタイヤとそれを収めるオーバーフェンダーという外観からも、初代とのコンセプトの違いは明らかだ。ちなみにオーバーフェンダーは日本仕様にはなく、海外向け仕様のみに装着されていた。

エンジンは2.0/2.8L DOHCの2種で、最高出力145馬力、0-100kmは9.8秒、最高速度は125MPH(200km/h)に達した。当時としては最高のスペックであったエンジンだけではなくサスペンションにもこだわり、走りの良さを追求したことで米国の著名自動車雑誌などでも非常に高い評価を獲得するほどであった。

初代ではラグジュアリーGTカーとしての性能と装備の高みを目指し、2代目はスポーツカーとしての性能を追求した。2代目からピュアスポーツに向かって舵を切り始めたと分かる。

3代目 A70型(1986年-1993年)

トヨタ スープラ(3代目 1987-1992) SEMAショー2018

1986年に登場した3代目(A70系)はセリカから独立したモデルとなり、日本向けも海外向けと同じくスープラと名乗るようになった。日本にとってのスープラの初代はこの“70スープラ”だろう。

デビュー直後から米国では大人気となり、当時の米国市場で最も人気の高い日本製スポーツカーの1つとして地位を確立。2世代目スープラに比べて飛躍的にパフォーマンスがアップしており、トップグレードの3.0GTターボには7M-GTE型直列6気筒ツインカム24バルブインタークーラー付ターボを搭載。当時最高クラスのパワーを実現し、最高出力は230馬力、0-100km/hは6.4秒、最高速度は232km/hに達した。

▼左:3.0GTターボエンジン/▼右:ラグジュアリーな要素が強い内装

1988年式 スープラ 3.0GTターボ(MA70型)/トヨタブース【オートモービルカウンシル2019】
1988年式 スープラ 3.0GTターボ(MA70型)/トヨタブース【オートモービルカウンシル2019】

トップグレードだけでなく、70スープラにはすべてのグレードで6気筒エンジンが搭載されていた。一番ベーシックなグレードに搭載されたエンジンは105馬力とローパワーだが、それでも直6エンジンのフィーリングは素晴らしかったという。

最後期モデル(1990年2月のマイナーチェンジ)では、上記M型エンジンの上級モデルがさらに高性能な直列6気筒の2.5リッターツインターボ1JZ-GTE型エンジンへと置き換えられた。このエンジンは当時の自主規制の上限にあたる280馬力を発生する。1980年代は交通事故死者が急増し、深刻な社会問題となったことから運輸局に迫られるかたちで“自主規制”をかけ、280馬力を自主規制上限値としたもので、その上限に達していたことになる。実のところエンジンのポテンシャルはそれ以上だったともいわれている。

70スープラ発売当時のキャッチコピーは「TOYOTA 3000GT」であり、1960年代の名車トヨタ 2000GTをイメージしていた。(2000GTもトヨタの高い技術力を広告するイメージリーダーカーであった。)その謳い文句通り、最高性能を盛り込まれた70スープラはトヨタが持つ技術の最先端を盛り込んだ“スポーツカー”だった。

4代目 A80型(1993年-2002年)

カーセンサーブースには80スープラが展示されていた【オートモービルカウンシル2019】

1993年に登場した4代目スープラ(日本では2世代目となるスープラ)は“80スープラ”として親しまれており、多くの人がイメージするスープラだろう。

80スープラはトヨタスポーツカーのフラッグシップとして開発され、基本性能に徹底してこだわり、ドイツ・ニュルブルクリンクで鍛えられたモデルだ。当時市販車では数少ない6速MTを採用し、米国ではNA(220馬力)とツインターボ(320馬力)の2種が発売され、0-100km/hはそれぞれ6.8秒、4.6秒をマークするなどパワートレインもトップクラスであった。

▼左:空力を高めるフェンダーリヤスポイラーを備えた外装/▼右:レーシングカーのようなコックピット

トヨタ スープラ RZ/1994.08
80スープラ内装

その完成度は高く、ハイパワーのFRながらもコントロール性の高さは今でも通用するレベルで、現在もトヨタの社内訓練車として活用中である。モータースポーツの世界でも活躍し、全日本GT選手権/スーパーGTでは4度のチャンピオンに輝いている。

ちなみに、映画「The Fast and the Furious」(邦題ワイルド・スピード)によって米国を中心に爆発的人気を獲得してから、アメリカではいまも非常に高い人気を得ている。そのため、右ハンドル仕様のスープラをわざわざ日本から輸入して乗る、究極の日本車ファンも少なからず存在する。「25年ルール」(製造から25年経過した車は右ハンドル車でも米国内の走行が可能)の適用により、1993年製造のA80であれば、2018年から、米国内での走行も解禁となっている。

「THE SPORTS OF TOYOTA」をキャッチコピーとしており、3代目スープラから更にスポーツカーとしての純度を高めたことで、世界中のスポーツカー好きから愛されたのだろう。そして復活した5代目スープラは、4代目の販売が終了した2002年から17年の時を経ながらも、この流れを受けている。

5代目 DB型(2019年-)

トヨタ 新型スープラ グレード/ボディカラー:RZ/ホワイトメタリック

2019年5月17日に発売となった5代目スープラのフラッグシップモデル:RZには、4代目の80スープラと同じ「直列6気筒エンジン+後輪駆動(FR方式)」が継承されている。これは5代目の開発プロジェクトが開始された2012年当時、新型スープラのエンジンとして相応しい直列6気筒エンジンを製造していたBMWとの共同開発を行うことで可能となった。4代目まで高めてきたスポーツカーとしての純度を極限まで高めるている。80スープラや86と比較するとホイールベースはショート、トレッドはワイドとなり、スポーツカーの理想的なホイールベース・トレッド比となった。さらに重心高を最適化するなどディメンション重要視し、高いハンドリング性能を実現した“ピュアスポーツカー”として登場したのだ。

高い運動性能を手にするため、後席なしの2シーターへ

トヨタ スープラ

初代のラグジュアリーGTカーからの系譜でもわかるように、スポーツカーの純度を高めながらも様々な要件を盛り込んできた。しかし新型スープラは運動性能を高めるために、後席なしの2シーターに割り切るなどソリッドなスポーツカーとなり、さらなる走りの切れ味を手に入れた。

エンジンだけではない、外装にも先代の面影

新型スープラの特徴の一つに運転席と助手席のルーフがこんもりと膨らんでいる形状がある。これはダブルバブルルーフという、空気抵抗を減らすため前面投影面積を減らしながらも、ヘルメットを被っても窮屈ではないようにするための工夫で、2000GTなどのスポーツカーに採用されてきたデザインだ。またヘッドランプの位置を車両内側に寄せるボディデザインも先代スープラや2000GTから受け継がれている。3代目の70スープラと同様に新型スープラでも2000GTを強く意識していることがわかる。

ダブルバブルルーフを採用した ▼左:新型スープラ/▼右:2000GT

トヨタ 新型スープラ グレード/ボディカラー:RZ/ホワイトメタリック
1967 TOYOTA 2000GT【ピーターセン自動車博物館】

ヘッドランプの位置を車両内側に寄せるボディデザイン ▼左:新型スープラ/右:80スープラ(4代目)

トヨタ 新型スープラ RZ[プロトタイプ/直6 3.0Lターボ/2019年春発売予定・5代目モデル]
トヨタ スープラ(4代目 1993-1998) SEMAショー2018

完成度の高い80スープラと同様の開発姿勢

ドイツ・ニュルブルクリンクにおけるレーシングスピードでの走り込みのほか、欧州のカントリーロードやアウトバーン、北欧の氷雪路、アメリカのハイウェイ、日本のワインディングロードなど世界中の一般道で徹底的に走り込みを実施。開発の姿勢も歴代のスープラから継承している。

トヨタ 新型スープラ グレード:SZ

スープラの系譜を辿ると、新型スープラのエンジンやボディ形状などの成り立ちが良くわかる。新型スープラもまた歴代のスープラが背負ってきたトヨタブランドの“イメージリーダーカー”として役目を果たしている。

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