戸建住宅団地再生へ、持続可能なサービス提供基盤の構築を まちづくり特集2019

兵庫県三木市の南東部、神戸電鉄緑が丘駅前に広がる大規模住宅団地の一部は、大和ハウス工業が1971年から3期にわけて約5500区画を分譲した。

第1期開発エリアの高齢化率は約39・9%となり、同時期に開発された全国の大規模住宅団地と同様に、ニュータウンは『オールドタウン』になりつつある。

同社は、既存の住民がいつまでも健康に住み続けられると同時に、若年層が継続的に流入し住み続ける、「永続的に続く街」を目指し、三木市や大学、企業、地域住民などが連携して、郊外型住宅団地の魅力向上に取り組んでいる。

4つの実証事業が進行中

同社が開発した郊外型戸建住宅団地「緑が丘ネオポリス」では現在、三木市生涯活躍のまち推進機構が主体となり、町の再耕に向けて(1)自動運転車両によるコミュニティ内移動サービス(2)クラウドソーシングと高齢者・障がい者の就業環境整備(3)高血圧症の重症化予防(4)サテライト拠点整備と移住の場の整備――の4つの実証事業が進行中だ。

住民の交流拠点も整備

人口密度の薄い戸建住宅団地は、市場に任せていても新しいサービスは入ってこない。そこで、団地に関係する産官民学で構成する一般社団法人「三木市生涯活躍のまち推進機構」を立ち上げ、各種サービスの提供体制作りに取り組んでいる。

高齢化した既存の住民が安心・安全・健康に住み続けられると同時に、子育て層も継続的に流入するような、魅力的な住宅団地を目指している。

団地内は自動運転で

団地内を走る自動運転車

今年2月、自動運転車両が同団地内を走った。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証実験で、あらかじめ設定された約2・6キロの走行区間の沿線住民約30人がモニターとなり、自宅と公民館や自治会館、商業施設などの生活拠点を結ぶ移動手段としての可能性を探るものだ。

高齢化により、免許証返納者や移動困難者の増加を予測し、タクシーよりも安価でバスよりも利便性の高い移動交通手段として、自動運転車両の実用化を検討しているという。

将来的には、自動運転車両を団地内で共同所有し、維持費を利用者全員で負担するモデルを想定。団地内などの近距離の移動は自動運転で、他の地域へはバスや電車などの公共交通機関を使ってもらう。高齢者の外出機会を創出し、健康的に住み続けられる町を目指す。

若年層への魅力向上では、クラウドソーシングによる就業環境整備に取り組む。時間や場所に左右されない柔軟な働き方と、チーム制によるスキルアップの仕組みの導入・検証を行う。既に20人のチームが1つ誕生し、今月から仕事を受注し始めた。チームリーダーを置き、チームで仕事に取り組むことで、チームメンバーの業務量の管理やスキルアップ、モチベーションの維持などに効果があるとみている。同時に、参加者同士の交流が促されて新たなコミュニティ形成にもつながる。

地域内の住み替え支援

同社の多角化した事業の強みが生かせそうなのが、団地内での移住・住み替え・就労支援だろう。

同社が所有する団地北西部の空き地に、地域内の高齢者が移り住めるような高齢者向け住宅街区と、高齢者や障がい者が永続的に就業できる環境を整えるため、胡蝶蘭を育てるビニールハウスを建設し、団地内からの住み替えを促そうと考えている。就労時は、ウェアラブル端末で体温や心拍を計測し、熱中症などを予防する。就労を通じて、高齢者や障がい者に「生きがい」を感じてもらう。

住み替えによって空いた住宅は、同社がリノベーションして団地外からの移住を希望する子育て世帯などに提供する。改修した住宅は、同社のサテライト拠点として、3年間などの一定期間、地域の居場所やクラウドワーカーの仕事場などとして開放することも検討中という。

拠点を通じてリノベーション住宅の良さを体感してもらい、リフォーム潜在客の掘り起こしや地域情報の収集などにも使う。これらの拠点は、最終的には団地外からの移住希望者に提供する計画とした。

これらの実証実験のほとんどが、国からの交付金で成り立っているという。実証期間が終わる2020年以降は、三木市生涯活躍のまち推進機構と地域住民らによる経済的に自立した運営基盤と、永続したサービス提供体制が求められる。

持続可能な体制づくりが必要

「サービスを無料提供するよりも、住民に一定の費用負担をしてもらったほうが、『自分たちのサービス』という意識が芽生える。地域に関心を持つきっかけにもなる」との考えもある。地域への関心が高いキーマン頼りにも限界があるだろう。団地再生には、持続可能な体制づくりが必要になりそうだ。

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