緑地の価値を評価する「ABINC認証」が街や住宅にも広がり まちづくり特集2019

ESG(環境、社会、企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)が、個人・企業を問わず、あらゆる行動のきっかけになりつつある。それは、住宅選びやまちづくりにも欠かせない要素・視点になるだろう。

「いきもの共生事業所認証(ABINC認証)」は、企業における生物多様性に配慮した緑地づくりや管理・利用などの取り組みを、専門家が客観的に評価・認証する。環境問題への関心が高い生活者への効果的なアピール手段として活用できそうだ。

ABINC認証で生物多様性を保全

ABINC認証は、生物多様性の保全を目指して積極的に活動する企業組織・企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)の「持続的生物多様性土地利用ワーキング」のメンバーが、2013年12月に設立したいきもの共生事業推進協議会(ABINC=エイビンク、代表理事=中静透総合地球環境学研究所特任教授)が運用する制度。同ワーキンググループが作成したガイドラインに基づき、緑地を評価する。

基本の評価項目は、緑地の面積や構造、地域に根ざした植生や、自然の循環を生かした持続可能な維持管理手法、地域との連携、多様な活用プログラム、従業員の参画と担い手の育成――など18項目。さらに、地域の希少種の保全活動や生態系保全につながる活動があれば加点される。およそ100点満点で採点し、基準点を超えるとABINC認証が得られる仕組みだ。2014年2月の第1回認証から、累計76件が認証を取得した。現在、第7回認証に向けた事前相談にも応じてくれる。

晴海フラッグは街区単位で認証取得

開発が進む晴海フラッグは、世界的なまちづくりの環境認証制度「リード・ゴールド」や「キャスビー街区」Sランク認証に加えて、複数街区の緑化評価に対応させた「ABINCアドバンス認証」の第1号物件となった。

認証制度の創設当初は、大きな緑地を設ける必要がある工場を主な対象に、ガイドラインに基づく生物多様性に配慮した緑地づくりを推進していた。

その後、集合住宅や都市再開発、ショッピングセンター、物流施設、戸建住宅団地などの比較的面積の小さな緑地についても、第三者認証制度を実施してほしいとの声を受け、対象物件を拡大してきた。

ABINC認証を取得した三井住友海上駿河台ビルの屋上庭園(東京都千代田区)

緑地面積は小さくても、「周辺地域に生息する鳥や蝶、虫などの移動範囲内にあれば、餌場や休息地、移動の際の中継地点」(ABINC事務局)になることから、「認証緑地が増えるほど、エコロジカル・ネットワーク(生態系ネットワーク)が形成されやすい」(同)という。

生物の生息範囲が広がれば、種の交流などで生物多様性が促される。

そして、2018年には複数街区が一体的に整備される大規模なまちづくりを対象に、エリア全体での生態系保全の取り組みや、複数事業者の協力体制、地域のサスティナビリティへの貢献などを評価する新しい認証シリーズ「ABINCアドバンス」を開発し、運用を始めている。

販売時に緑地の価値をアピール可能

この認証制度の活用が、集合住宅や戸建住宅団地にも広がっている。以前から、生物多様性に力を入れてきたデベロッパーや住宅メーカーは、同認証制度を活用することで第三者による緑地の「お墨付き」が得られるわけだ。

さらに、計画図面でも認証取得が可能なため、未完成物件でも、販売時に「緑化の価値」を根拠を示しながら訴求できるといったメリットもある。

ABINC認証には、資産価値を維持したり、ローン金利が優遇されたり――などの具体的な経済効果はまだないが、これからの時代の持続可能なまちづくりの参考指標のひとつとして、導入してみるのもよいだろう。

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