F1カナダGPでスチュワードを務めたピロ、元ドライバーからのペナルティ批判に困惑「難しい判断を迫られることもある」

 FIAドライバースチュワードで元F1ドライバーのエマニュエル・ピロは、論争を巻き起こしている先週末のF1第7戦カナダGPでのペナルティについて、自分と同じ元レーサーたちからの批判的な反応に気持ちを傷つけられたと明かした。

 ピロは37回のF1出走経験を持ち、ル・マン24時間レースで5回の優勝を飾った人物だ。そしてこれまで、たびたびFIAのドライバースチュワードを務めてきた。

 カナダGPの決勝レース終盤、ミスによりコースアウトを喫したセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)は、危険な方法でコースに復帰しルイス・ハミルトン(メルセデス)の走行を妨げたとして、5秒のタイム・ペナルティが科された。

 この裁定により、待望されていたフェラーリとベッテルの2019年シーズンの初優勝は消え、メルセデスに7戦連続となる優勝がもたらされた。しかしこの裁定が、ソーシャルメディア上でレースファンとレース関係者たちの怒りに火をつけた。

 モータースポーツ界のレジェンドであるマリオ・アンドレッティは、カナダの一件について「受け入れられない」と述べ、1992年のF1チャンピオンであるナイジェル・マンセルは、今回の裁定を「非常に見苦しい」と断じた。

 他にも多くの現役および元ドライバーたちが同様の意見を述べている。しかし2016年のF1チャンピオンのニコ・ロズベルグは、ベッテルに科されたペナルティは完全に正当なものだったと考えているひとりだ。

「ありがたいことに、多くのF1およびレース関係者が連帯を表明してくれた」とピロは語った。

「だが、マリオ・アンドレッティやナイジェル・マンセルのような偉大な元ドライバーたちからあのようなことを言われると、気持ちは傷つく」

 アンドレッティやマンセルといったF1レジェンドはいずれも、安全がさほど重大な関心事ではなかった時代にレースをしていた。これについてピロは、「今日では事情が違う。世界は変わったし、レースも変わった」と、イタリアのメディア『FormulaPassion』に語った。

「安全性向上のために、これまで数多くの戦いが積み重ねられてきた。そのなかには、レースの実施方法に関するものも含まれる」

「レースの、そして何よりもフェラーリのファンとして、今回このような形でレースが終わってしまったのは残念だ」

「理解してもらえると思うが、いくつかの場合において難しい判断を迫られることがある。しかしいつでも最優先されるべきなのは、スポーツの品位だ」

 カナダGPで任務に就いていた同僚のFIAスチュワード、マチュー・レメリーは、ベッテルにペナルティを科した裁定を擁護する。だが同時に、現在の規制は行き過ぎだとも考えている。

「規制を見直すべきだとする提案は、受け入れられる議論だ」と、レメリーはベルギーの通信社『Sporza』に対して語った。

「モータースポーツの熱狂的ファンとして、当然のことだが私は素晴らしいレースを体験したい」

「これまでに規制の行き過ぎが露呈したケースはあっただろうか? 多分イエスだろう。ただ、評価が難しい事態というのはいつでも起こり得る」

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