言いそびれた一言を

 ご家庭のカレンダーであすの日付、「16」の数字が○で囲まれていたら、誰がそうしたのか大体決まっているものらしい。〈父の日に自分で丸を付けておく〉。東急百貨店が募った「父の日川柳」のかつての上位作にある。○をしないと、誰も気付いてくれないよな…▲「母の日」に比べると、あすの「父の日」はどうも影が薄い。近頃の読者の皆さんの投稿にも、父の日について「地味な感じ」「いつだったっけ、とネットで検索した」とある▲5月初旬、求人情報サイトが発表した調査結果によると、母の日に贈り物をする人は75%、父の日は56%で、かなりの開きがあった。お父さんに贈る人気の品は「お酒」「衣類」という▲先の「父の日川柳」の総評で、川柳作家の尾藤一泉さんは述べている。父の日に寄せる思いに共通するのは「照れ」のようなものだ、と。家族もお父さん自身も、思いを表し、表されるのをどこかためらう。分かる気がする▲素直に「ありがとう」と言えないまま時が過ぎたのだろう。5年前、小欄の左の「きょうの一句」に載った、小林筍さんの作がある。〈父の日や渡しそびれの感謝状〉▲「ありがとう」に限るまい。あすという日は人それぞれ、言いそびれてきた一語が胸に広がる日であり、できることならばそれを伝えたい日でもある。(徹)

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