身近にある「危険物施設」に備える 全国に41万651施設、豪雨でアルミ工場爆発

平成30年7月豪雨災害で爆発した岡山県総社市のアルミ工場

突然ですが、お隣やご近所にある会社は何をしている会社がご存じですか?

社名からおおむね推測はできるでしょうが、建物の壁の向こう側、見えない室内に何があるのか、何をしているかは全然分かりませんよね? 自社と業種が違えばなおさらだと思います。

今回は、意外と身近にたくさんある“危険物施設”について、どう付き合っていけばいいのか、平成30年7月豪雨災害の事例をもとに考えてみたいと思います。

意外と身近な危険物施設

平成30年7月豪雨災害では、岡山県総社市内のアルミ工場が爆発し、周辺地域に被害が及びました。爆発した工場は、いわゆる「危険物施設」でした。危険物施設とは、危険物に関する法令で決められた指定数量以上の危険物を製造、貯蔵、取り扱いを行う施設をいい、例えばガソリンスタンドやタンクローリーなども該当します。この危険物施設。かなりの数があることをご存じでしょうか?

なんと、全国に41万651施設!(※1)

恐らく工業団地などに集中しているのでしょうけれど、町内会の数が全国で20~30万とされていますから、ざっくりいうと一つの町内会に1カ所以上ありそうな数ですね。それにしても数の多さに驚きました。

危険物施設の事故というと、2011年東日本大震災における原子力発電所の事故が頭に浮かびますが、実は過去の自然災害による被災で多くの事故が発生しています。

危険物施設における事故発生状況の推移※2

消防庁の資料をもとに筆者がグラフ化したもの

※1 消防庁「平成29年中の危険物に係る事故の概要」
※2 平成29年版消防白書をもとに筆者が作成

被災すれば危険物施設の事故も増加する

大規模な自然災害が発生すれば、私たちの住まいや身近な道路など公共施設が被害を受けるのと同様に、全国に多数ある危険物施設も被害を受けます。
過去の災害時の状況を見てみると、阪神淡路大震災の発生した平成7年では当該年に発生した事故総数の32.1パーセントが、東日本大震災の発生した平成23年では28.7パーセントが災害に起因する事故となっています。

両年ともに災害が発生したことによって、約1.4倍の危険物の事故が発生していることになります。

どうでしょう。私はデータを整理して、「えっ、そんなに多いの?」とあまりの多さに正直驚きました。

自然災害はピンポイントで起こるのではなく、ある一定の範囲で被害が発生しますから、その範囲の中には全国に約41万ある危険物施設が入っていても、もちろんおかしくありません。

なのに自然災害というと、地震の揺れによる建物の倒壊、洪水や津波による家屋の流失など直接的な被害ばかりが頭に浮かびませんか?

街歩きで危険な場所をチェック!

例えば、前回の連載でご紹介した地区防災計画を策定するプロセスでよく行われるのが、地域の防災マップ作りです。防災マップを作る過程で街歩きをしますが、小さなお子さんから年配の方まで参加できるとても楽しいイベントになるので、私は大好きです。

街歩きをする時のチェックするポイントとしては、災害時に危険な場所(高いブロック塀や柵のない用水路など)や役に立ちそうなもの(防災倉庫、公衆電話など)などが一般的でしょう。歩きながら地図にその場所をプロットし、写真を撮って、得られた情報を皆で持ち寄り1枚の大きな地図にまとめていきます。

町内会の防災マップのイメージ

その地図を見ながら災害が起こった時にどうなるか、みんなで想像して話し合い、お互いが不安なことを共有していくことで、助け合いの機運が生まれてきます。

危険物施設はあまり認識されていない?

この街歩きや防災マップづくりは、前回の連載で取り上げた地区防災計画の入り口としてとても有効ですが、マップの作成過程で危険物施設に起因する不安は意外と話題に上がりません。

昨年のアルミ工場の爆発事故以降、防災活動が大変盛んで全国に好事例として知られている地域の方に、地域内の危険物施設についてどう思うかお聞きしましたが、「そういう施設があることは分かっていたが、災害時の事故については考えたことがなかった」「これまで15年活動してきたが、ようやく気になるといった声が出始めてきたところ」といった返答でした。

地域の危険物施設に関する情報は所轄の消防署が有していますが、残念ながら誰でもネット検索で分かるようなオープンな状況にはなっていません。
ただし、有害性のある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表する仕組みはあります。

PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)と呼ばれるもので、地図で身近な事業所を検索できるので、ぜひ使ってみてください。
http://www2.env.go.jp/chemi/prtr/prtrmap/

 

放射線障害防止法の対象事業所一覧も参考になります。毎年公表されているものですが、身近の研究施設などでもこうした物質を持っている知識は備えておくとよいかもしれません。
http://www.mext.go.jp/component/amenu/science/anzenkakuho/microdetail/__icsFiles/afieldfile/2012/08/08/1261261_2_.pdf

 

災害が発生して初めて被害と向き合うことに

危険物施設=「きけん」というわけではなく、きちんと法律に基づき管理され、対策が施されている施設ですから通常の状態では何の問題もないでしょう。逆に危険物とは、すなわち資源を扱っている施設ですから大変重要な産業の担い手企業です。

一方で、こうした存在は外からは意外と注視されず、災害が発生して初めて私たちは被害と向き合うことになります。

昨今の気候変動と南海トラフ地震や首都直下地震などの巨大地震発生の切迫性から、今後ますます災害は頻度高く発生することが懸念されています。

危険物施設を管理している企業も、危険物を漏洩させない対策はもちろんのこと、自然災害で自社が被害を受けた場合に地域に与える影響と二次被害を軽減させるための対応策について少なくとも事前に考えておく必要があるといえるでしょう。

地域にある企業と共存して暮らしている私たちは、もっと地域の資源に目を向け、さまざまな角度から地域を見つめ直し、いつもの時ともしもの時の対応策を柔軟な発想で他人任せにせず、多様な方々と共に考える関係性づくりが必要であると考えています。

(了)

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