《連載:わたしの町の大煙突》(下) 「サクラの日立」原点

「協調」の歴史伝える

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映画「ある町の高い煙突」への思いを語る松村克弥監督=日立市東河内町

毎年春になると、大煙突の周りは、満開のオオシマザクラで白く染まる。

日立市のサクラは煙害克服の取り組みの中で生まれた。

日立鉱山の銅製錬に伴って発生した亜硫酸ガスを含む煙は、周辺の山林を枯らすなど地元に深刻な被害をもたらした。

住民と同社との壮絶な交渉の末、大煙突が建設され、煙害は大幅に減少。並行して同社による植林活動が始まる。周辺の山々への植樹と市民への無償配布で、苗木の総数は1千万本を超す。現在、市内を彩るソメイヨシノも、煙害に強いオオシマザクラに接ぎ木した苗木に行き着く。

新田次郎の小説を原作とする映画「ある町の高い煙突」は、大煙突を巡る実話と「サクラのまち日立」の原点を今に伝える。

■町の誇り

2017年春。「日立の町中にサクラが植えられて100年。奇跡の実話を映画化したい」。松村克弥監督(56)は地元の協力を求めた。

日立市東滑川町の宿「うのしまヴィラ」の館主、原田実能さん(60)は、その熱意に動かされた。

「若い世代に大煙突とサクラの史実を知ってほしい」。長年抱いていた思いもあり、映画を応援する会の代表を引き受けた。

原田さんは28年前に東京から同市へ移り住んだ。市の歴史を学ぶ中で、大煙突とサクラは欠かせない要素と知った。

大煙突建設とサクラの植樹に尽力した日立鉱山の角弥太郎は同じ広島県府中市の出身。角の功績に刺激され、まちづくりイベントにも携わってきた。

応援する会は、市民と企業・団体、市職員で構成し映画製作をサポートした。

原田さんはこれまでの経験を生かし、地元の支援集めに奔走。ホームページを開設し、大煙突周辺のまち歩きマップも制作、撮影現場での炊き出しや市民エキストラ募集に汗を流した。

映画は公開にこぎ着けたが、「応援する会はこれからが本番」と意気込む。

「映画をきっかけに、日立のまちを盛り上げたい」

■世界へ発信

「エコロジーがテーマの本作は、茨城3部作の集大成」

これまで本県ゆかりの映画「天心」「サクラ花」を手掛けてきた松村監督は胸を張る。

小説「ある町の高い煙突」を手にしたのは14年。ひたちなか市内での「天心」上映会で参加者から紹介されたのがきっかけだ。

「住民と企業が対立から協調へと展開する物語に引かれた」

日立市民からも「ぜひ映画に」との熱い思いが数多く寄せられ、メガホンを取る決意を固めた。

撮影は「その土地にしかない空気感がある」と県北各地で実施。一方で「日立の大切なシンボル」大煙突はコンピューターグラフィックスで忠実に再現した。

「開発事業はしばしば環境だけでなく、人間関係も壊す。大煙突完成に至る若者の葛藤と人間ドラマを色濃く描いた」

海外向けの予告編も作った。「環境破壊は共通の課題。世界に誇れる茨城の物語を多くの人に再発見してほしい」

映画は水戸、つくば両市で公開中。22日からは全国約80館で上映される。(この連載は、日立支社・湯浅奈実が担当しました)

映画の一場面。企業側の加屋淳平(左)と固い握手を交わす住民代表の主人公・関根三郎=(c)2019Kムーブ