次代のテニス界を牽引する若手選手~ロシア復権の旗手カレン・ハチャノフ~

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写真は2019年「全豪オープン」でのハチャノフ

ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が10年以上にわたりトップクラスを誇る一方、台頭する若手の少なさが憂慮されていた男子テニス界。しかし、その状況はようやく変わりつつある。着実に成長している若手選手を、その生い立ちや人となりも合わせて紹介していこう。

今回取り上げるのは、2019年「全仏オープン」でベスト8のカレン・ハチャノフ(ロシア)。

5月に23歳になったハチャノフは、グランドスラム優勝やトップ10入りをするような有名選手たちを輩出してきたロシアで現在最も期待される存在だ。モスクワに生まれ3歳でテニスを始め、15歳から元世界2位ゴラン・イバニセビッチ(クロアチア)を育てたベドラン・マルティンに師事。そしてU-18欧州選手権を制した2013年、ロシア人史上最年少(17歳157日)でプロ入り。2014年にマルティンと一度袂を分かち、スペイン・バルセロナにあるテニスアカデミーへ。その2年後、「ATP250 成都」でツアー初優勝を果たした。

マルティンと再び組むようになった2018年は、45位から11位へと大きくステップアップ。2月の「ATP250 マルセイユ」で2つ目のタイトルを獲得し、ノーシードで参加した「全仏オープン」4回戦では第2シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)にフルセットの末に惜敗。「ウィンブルドン」でも4回戦まで勝ち進んだ。そして第27シードとして出場した「全米オープン」では、3回戦で第1シードのラファエル・ナダル(スペイン)と接戦を展開(7-5、5-7、6-7、6-7)。ナダルにとって「全米オープン」最長となる4時間23分に及ぶ熱戦で、両者のポイント差はわずか6だった。追いつかれてからもハチャノフは攻めの姿勢を崩さず、第3セットのタイブレークは「この年の最もスリリングなタイブレークの一つ」とATPに評された。その2週間前の大会に続いて彼に苦戦したナダルも、「とてもタフな状況だった。彼はアグレッシブなプレーを見せた。毎回プレーを改善させている彼はすべてを備えており、素晴らしい未来が待っているだろう」と称賛の言葉を寄せた。

最大のハイライトはそれから2か月後の「ATP1000 パリ」。ジョン・イズナー(アメリカ)、ズベレフ、ドミニク・ティーム(オーストリア)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)とトップ10の選手4人を立て続けに撃破し、マスターズ初優勝を成し遂げたのだ。特に、決勝で当たったジョコビッチは当時22連勝中、シンシナティと上海のマスターズ、「ウィンブルドン」「全米オープン」で優勝していた。そんな大本命を同大会前までトップ10相手の19試合でわずか3勝だったハチャノフがストレートで破ったことは、テニス界に大きな衝撃を与えた。ジョコビッチは試合後、「彼は勝利に値するプレーをした。まだ若いが、すでに完成されたトップクラスの選手だ。バックハンドとフォアハンドは強力な武器だし、サーブも強烈かつ精確だ」と話している。ジョコビッチのチームで戦術分析を担当するクレイグ・オショーネシーも「彼のフォアがどこへ行くのか、相手には分からない」と同調する。

2019年シーズンは、前半に8度の初戦敗退を経験したものの徐々に復調し、第10シードで臨んだ「全仏オープン」でベスト8。その4回戦では自身のアイドルの一人、フアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)に対し、相手のお株を奪うような攻撃的なプレーで勝利した。デル ポトロから「難しい状況であれだけ強いボールを打てる選手はそういないが、彼はその数少ない一人だ」と称賛されたハチャノフは、6月10日付けのATPランキングでキャリアハイの9位につけた。

幼い頃からのアイドルは元世界1位のマラト・サフィン(ロシア)で、「小さい頃はしょっちゅう彼の映像を見て、真似していた」と語るハチャノフ。その影響もあってプレースタイルが似ているサフィンとは16歳の時に初対面して以来、コート内外で交流があるそうで、「彼のプレーはもちろん、パーソナリティも好きなんだ。テニスだけじゃなくていろんなことを話すよ。その内容は秘密だけどね」と顔をほころばせる。

そんなハチャノフは2016年に結婚、2019年9月にはパパになる予定だ。プライベートでは、チェスをしたり古典を読んだり、モスクワ大学の通信制で学んだりと知的な顔を見せる一方、お茶目な一面も。その一つがハリウッド俳優のリアム・ヘムズワースをネタにしたもので、顔が似ていると巷で噂になっていることについて「ああ、僕は4人目の兄弟だよ」と、3人とも俳優であるヘムズワース兄弟に関するギャグを言ったり、自身のTwitterにリアムと自分の画像を並べて投稿したりしている。

マスターズに優勝した母国の先輩たち、サフィン、元世界1位エフゲニー・カフェルニコフ、元世界9位アンドレイ・チェスノコフ、元世界3位ニコライ・ダビデンコの仲間入りを果たしたハチャノフ。「全仏オープン」ベスト8はロシア人としては2010年大会のミカエル・ユーズニー以来、トップ10入りも2011年のユーズニー以来であるように、先人たちの足跡を着実に辿ってきている。同い年のダニール・メドベージェフ、1歳下のアンドレイ・ルブレフとともに、ロシアの新たな時代を切り拓いていくだろう。

(テニスデイリー編集部)

※写真は2019年「全豪オープン」でのハチャノフ(Photo by Recep akar/Anadolu Agency/Getty Images)