麻疹は大人にとっての重大な脅威 1回たりともかかると危険

猛威を振るう麻疹は、十分な予防接種を受けていない大人に広がっています

本連載企画の第1回は、最近あちこちで話に上る麻疹について解説をしたいと思います。麻疹は全身性のウイルス性疾患で、感染力が非常に高い疾病です。さらに急性脳症を起こしたり、亜急性硬化性全脳症という死亡することがある重篤な脳炎を起こすこともあります。

日本は、2015年にWHO(世界保健機関)から麻疹の排除が認められました。つまり、適切なサーベイランス制度の下、土着性の感染伝搬が3年間確認されず、また遺伝子型解析により、そのことが示唆されたのでこういった認定を受けたということになります。しかし、外国からの輸入麻疹は、後を絶たず、集団発生事例が起こっていることは皆さんもご存じだと思います。

麻疹の発症年齢は以前は小児が中心でしたが、小児における予防接種がかなり徹底されてきた現在では、小児より、成人の罹患者の割合が増加し、2017年では20歳以上が80パーセントといわれ、成人の病気となったといっても過言ではありません。

写真を拡大 国立感染症研究所による5月29日時点の麻疹発生累積報告数(赤線)。近年を大きく上回るペースとなっている(https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/measles/2019pdf/meas19-21.pdf

特徴:20歳以上が80パーセント、重篤な脳炎も

症状 
典型的な麻疹は、発熱、せき、鼻汁、結膜炎といった症状で始まります。普通の風邪にしては、鼻汁や目やにが多く、目が充血しているなど、医療用語でいえば「カタル症状が強い」と表現できるかと思います。38度前後の発熱が2~4日続いたあと、半日ぐらい1度程度の解熱傾向が認められ、その後39~40度の高熱が見られます。この時に発疹が出現します。

発疹は通常顔から始まり、頭部、体幹へと拡大して、全身に出現します。最初は赤い丘疹ですが徐々に癒合し(くっつき)、全体的に赤黒くなり、回復期には色素沈着をしばらくの間残すことが多いといわれています。高熱の方は数日続き、その後徐々に解熱していき、治ります。だいたい平均して7〜10日で回復します。また発疹が出現する前に口腔粘膜(頬の裏側)にコプリック斑という小さな白色の粘膜疹の集族が見られます。コプリック班は高熱が出るころには消失します。

麻疹は治ってもその後1カ月前後は免疫力が落ち、他の風邪をひいたりしやすくなることが多いといわれています。最も多い合併症は肺炎ですが、中耳炎、クループ症候群、またまれに心筋炎などを併発することもあります。冒頭に記載した脳炎は、頻度的には麻疹患者の1000人に1人と多くはありませんが、発症すると大変な疾患です。亜急性硬化性全脳症は麻疹患者の10万人に1人の発症といわれていますが、麻疹にり患してから7~10年ぐらい後に知能障害や運動障害が徐々に進行し、発症から6〜9カ月で死に至るといわれている恐ろしい疾患です。

近年、高熱や、典型的な発疹を伴なわなかったり、コプリック斑の出現がない修飾麻疹と呼ばれるものが時々みられます。修飾麻疹は不完全な免疫を保持している場合、例えば予防接種を以前に1回だけ受けた人が麻疹感染を受けた場合などに見られます。

麻疹の潜伏期は8〜12日といわれていますが、修飾麻疹では14日以上のこともあります。

感染経路、感染力
麻疹は麻疹ウイルスが気道に入り感染を起こしますが、この経気道感染には二つ種類があります。一つは飛沫感染でもう一つが空気感染です。飛沫感染はせきやくしゃみ、会話などによって飛ぶ唾液の中に含まれる水分を含む直径5マイクロメートル以上の粒子の中にウイルスが入っていて、それが周囲の人の気道に入り感染するのですが、大きいものはすぐに落下してしまいますし、水分がない状態では長く浮遊できないウイルスや細菌が感染を起こすものです。通常は感染源となる人の1〜2メートル以内のそばにいる人が吸い込み、感染をします。これに対し、空気感染は、飛沫から水分がなくなった飛沫核という5マイクロメートル以下の粒子に生息できるウイルスや細菌が感染を起こすことで、これに相当するのが麻疹、水痘、結核です。これらは感染力が大変強いといわれています。

麻疹は感染力が極めて強いということを具体的に表現すると、麻疹の免疫がない集団に1人の患者がいたとすると12~14人の人が感染するといわれています。ちなみにインフルエンザでは1〜2人です。麻疹に感染すると、免疫のない場合は90パーセント以上の人が発症するといわれています。

麻疹患者が周囲に感染を引き起こすのは、発症の1日前から、発疹出現後4〜5日といわれています。学校保健安全法では解熱後3日を経過するまで出席停止になります。

予防策:2回の予防接種で99パーセント免疫がつく

麻疹の予防で唯一有効なのは予防接種です。2回の予防接種により、99パーセントの人が免疫を持つことができます。

日本では1966年に麻疹ワクチン接種が開始されましたが、当初は、不活化ワクチンと生ワクチンの併用でした。副作用の軽減を目指し1969年からは高度弱毒ワクチンに切り替えられ、さらに1978年からは1回の接種が定期予防接種として組み入れられました。1989年に一時、麻疹・おたふく風邪・風疹の3種類のワクチンを混合したMMRワクチンが導入されましたが、おたふく風邪ワクチンによる無菌性髄膜炎が多発したことを受け1993年に中止となりました。その後再び麻疹単独のワクチン接種が行われていましたが、2006年以降は麻疹・風疹混合のワクチンの2回接種が開始されました。1回もワクチン接種を受けていない人や、受けても免疫が十分でない人を対象に追加措置が行われています。

もし麻疹患者と接触し、緊急に発症を予防したい場合は接触後72時間以内に予防接種をすることで発症を防ぐことができる可能性がありますが、100パーセントではないとされています。また接触してから5~6日以内であれば、γグロブリンの注射で発症を抑えることが可能ではありますが、これは医療者とよく相談する必要があります。

まん延への対策として、一番は2回の麻疹予防接種を確実に行うことではありますが、感染者があった場合は、その人からの感染拡大を抑える必要があります。それには麻疹という診断を確実に行う必要があります。最近は麻疹患者の減少とともに実際の患者を診察した経験のある医師が減少しており、正確な麻疹の診断をするために、臨床診断に加えて、病原体の確認や抗体の上昇による検査を行うことが必要とされています。確実な診断がつけば、他の人との接触を避けるなどの防御ができるわけです。

対策・治療:まずは電話で受診方法を確認

症状が出現し、麻疹を疑った場合は、診断を受けるために医療機関を受診するわけですが、その際に症状とともに麻疹の可能性があることを受診先に電話などでまず伝え、受診方法を聞くのがよいと思われます。麻疹患者が受診されると、院内にいる麻疹の抗体がない人では感染を起こす可能性が高いことになり、そこから感染が拡大するおそれがあります。そのため、診察までの待機場所などをあらかじめ確認しておく必要があります。

麻疹に対する特異的な治療はないといわれていますが、非常に重篤になる場合があり、確実に診断されることは重要です。治療は主に対処療法になりますが、入院しての治療が必要になることもあります。麻疹は5類感染症になりますので、医師は診断したり、可能性が高いと判断したときは速やかに保健所に届け出をし、その後保健所職員が本人に接触し、感染の可能性について問診を行ったりあるいは正確な診断のための検査を行います(受診した医療機関から提出された検体の検査を含め)。

終わりに:正確な情報を

麻疹は感染力の高い、生命をおびやかす可能性がある疾患です。昔のように、1度かかれば2度とかからないので、1回はかかっておいた方がよいなどの考えは、全く通用しません。世界中から麻疹を撲滅するために、正確な情報を入手し確認しながら感染を防ぐ注意が必要です。

(了)

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