【世界から】主婦もイクメンもつらいのだ オランダの家庭事情

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オランダ南西部ナールトワイクにある花市場。この市場でもワークシェアリングを積極的に取り入れている=2009年3月(共同)

 オランダ在住の私は日本の友人たちから、しばしば次のようなことを言われる。それは「ライフ(生活一般)とワーク(仕事)のバランスがうまく取れているんでしょう? いいなあ」であったり、「女性も仕事と家庭の両立が難なくこなせるのよね」だったり。そして、言葉の頭に枕ことばのように漏れなく付け加えられえるのが「ヨーロッパでは」だ。

 うらやましがられるのは、正直悪い気はしない。しかし、私はこのような言葉を耳にするといつも決まってまごついてしまう。何というか素直に喜べないのだ。

 「そのとおり!」と相づちを打てる訳でも「そんなことないよ」と否定してみせることもできない…。なぜなら、現実はそんな簡単な図式ではないから。答えにためらっている私に、彼ら彼女らはため息交じりで決まってこう言うのだ。「それに比べて日本ときたら…。いつになったら、ヨーロッパ並みになるんだろう?」。

▼オランダ人の誇りを支えるもの

 私が住んでいるオランダの面積は日本の九州ほど。ヨーロッパでも小国になる。国としてのメジャー度だけで言えば、隣国のドイツ、そしてフランスやイギリスなどには正直負けている。しかし、オランダ人たちは自国に対して高い誇りを持っている。それを端的に表しているのが次の言葉だ。

 「神は世界を作ったが、オランダは俺たちオランダ人が作ったんだ!」

 彼らがそこまで言うのにはもちろん理由がある。積極的な干拓を実施し続けた結果、現在では国土のおよそ2割を「ポルダー」と呼ばれる干拓地が占めている。そして、15世紀から17世紀中ごろの大航海時代には帆船を駆って世界中へ赴いて得た産品による貿易で経済的に豊かになるだけでなく、世界中の人を分け隔てなく受け入れたことでレンブラントやフェルメールを代表とする芸術など文化も花開いた。いわゆる「オランダ黄金時代」だ。近代以降も、ハイテクを駆使した農業を中心に輸出入に手腕を発揮し、国内総生産(GDP)の世界ランキングでは常に上位20位以内に入り続けている。これは「ライフとワークのバランスを保つのにたけているゆえだ」とオランダ人たちは自慢する。

▼きっかけ

 そんなオランダだが、1980年代には高失業率にあえいだ。その時に政府が導入したのが「ワークシェアリング制度」だった。これは、一つの仕事を分割することで1人当たりの労働時間を短縮するとともに、より多くの人が雇用の機会を得ることにつながる。結果、見事に立ち直した経験をもつ。

 ワークシェアリング制度の導入によって起きた変化の波に乗ったのが女性。多くの女性が社会へ進出するチャンスを得た。家庭と仕事の両立を可能にするに至ったのだが、それ以来、ワークシェアリング制は、一般オランダ人たちのワーク・ライフ・バランスのかじ取り役を担っているといっていいだろう。

 こうした社会的背景を反映してか、オランダ人たちは何ごとにおいても、シェアするのが得意である。シェアは家庭内でもごく普通に取り入られている。家事は夫婦が分担して行う。育児とてしかり。離乳食づくりからお風呂、日本における乳幼児健康診査に相当する「小児科検診」。成長後も学校への送り迎えに宿題の手伝い…。子育てに関する全てを夫婦で平等にシェアするのである。

 いわゆる「ワンオペ育児」などもってのほかで、日本でいうところの「イクメン」も、オランダでは当たり前。だから、もてはやされることもない。女性も育児は「天職」の一つとして受け入れられており、「育児イコール母親がメインに担うもの」といった義務感を伴うイメージに縛られてはいない。

 ただ、そんなオランダ人夫婦にとっても、育児というタスクはやはり難しいという。夫婦がきめ細かに計画してシェアしつつ、分担して行っているつもりでも、何せ育児の中心にいるのは子どもである。掃除や洗濯をこなすのとは、わけが違う。何しろ、育児には例外や予定外のことが多発するのだ。たとえ、気心が知れた夫婦であっても意見の食い違いは避けられない。意見が合わず、衝突を繰り返して派手なケンカに発展し、それが日々継続すれば、果ては離婚に発展する可能性も否めない。

▼必要なのは互いの思いやり

 すべて夫婦平等にシェアしあい、臨機応変に日々を送ってきた生活パターンも、育児がそこに挿入されることでうまくいかなくなることもあるわけだ。この点は、日本の状況とよく似ているといえるだろう。家事や育児にかける労働の比重が、夫婦のどちらに多くのしかかるか?とか、育児過程で精神的苦労を多く負うのは夫婦のどちらか?などが問題になり、ケンカに至るのは、なにも、日本の夫婦だけではないのだ。

 しかし、オランダ人はそこで一策を講じるのだ。育児による夫婦間のいざこざをさけるため、惜しみない努力をするのである。やや単純ではあるが、子ども抜きの日やひとときを、夫婦ががんばって捻出するのだ。いくつか具体例を挙げると、「子どもを預けて週末は夫婦だけで近場でもいいから1泊旅行に行く」「毎週●曜日の夜はレストランに行って2人でゆっくり食事をする」などだろうか。それが無理ならば、「どんなものでもいいので相手にちょっとしたプレゼントをあげる」という手もある。このように小さな思いやりをお互いが実践しあうのである。好きで一緒になった者同士、相手を思いやることくらい簡単なことだ、と彼らは言う。

 確かにオランダの一般家庭においては現状、ライフとワークのバランスが保たれているといえるだろう。ただし、育児においてだけは、どうも一筋縄にはいかないようだ。東西関係なく、子どもを持つ夫婦の悩みは世界共通だが、子育てという「ワーク(仕事)」を通じてお互いがねぎらいあってこそ、万事うまくいくのではないだろうか。(オランダ在住ジャーナリスト、稲葉かおる=共同通信特約)