53歳で亡くなったギタリストが残したもの    徳島の夜彩ったJAZZ、CDに

「SWING」で演奏する坂野功幸さん=春名舞さん提供

 ジャズギタリストの坂野功幸(さかの・よしゆき)さんがギターを手にしたのは10歳ごろだった。成人してから1年間ニューヨークに住んだ。そこでジャズに出合い、魅せられ、自ら学んだ。帰国後は長らく、徳島市のジャズクラブ「Swing」などで演奏を続けていた。

 細野晴臣さんとの共演で知られる音楽プロデューサー久保田麻琴(くぼた・まこと)さんは、坂野さんのバンドの演奏にほれ込んだ一人だ。「危うい色気がある」と評す、ギターのつややかな音色とブルージーなフレーズで聴衆を魅了していた。久保田さんが自ら録音したCD「AWA JAZZ」が完成、念願の発売日だったことし4月25日、坂野さんは53歳の若さで急逝した。

 毎週末のように、ギターを背負って繁華街に向かい、ライブに臨んだ。「リラックスした時にいい演奏ができるんよ」。赤ワインのグラスを手に取るたびに、その演奏は熱を帯びた。ライブ終盤、おもむろにハイテンポのスタンダード曲「キャラバン」のイントロを勢いよく弾きだすと、酒場の聴衆の熱気は一段と高まった。

 「人前で演奏しないとうまくなれないよ」。若手もバンドに積極的に登用し、セッションに参加させた。「まだまだ色気が足りんね。もっと恋をしないと」と冗談を言いながら成長を見守っている人柄は周りから慕われた。

 CD「AWA JAZZ」は、坂野さんがギタリストとして参加するオルガンジャズバンド「LONG HOUSE」によるものだ。各地の民謡や伝統音楽の録音を手掛ける久保田さんが数年前、阿波おどりを見に来た際、偶然訪れた小さなジャズクラブで、演奏を聴いたのがきっかけだ。

 「阿波おどりの影響か、ナチュラルなグルーブ感があり、身体で音楽をやっていた。徳島にすごいバンドがいると驚いた」。徳島のジャズの魂を残したいと久保田さんが徳島市内のスタジオで録音をしたのは昨秋のことだ。

 「みんなが元気なうちに録音を残せて良かった」。坂野さんは、ドラムの合田史郎(ごうだ・ふみお)さん(62)らに冗談めかして話していた。20年間共に演奏してきたオルガンの伊藤和範(いとう・かずのり)さん(61)は「あんなこと言っていた坂野が先に逝ってしまった」と悔やむ。

 4月20日、「Swing」でのライブでCDを先行販売した。常連客が購入し、坂野さんは、うれしそうにサインをしていた。亡くなる5日前のことだった。27日の葬儀の会場で、収録された愛奏曲のバラード「Mimosa」が流れると、参列者の涙を誘った。

2017年12月、徳島市、春名舞さん提供

 「粋で下世話、純情阿波男達のオルガンジャズ」と銘打ったCDは、スタンダード曲「サマータイム」など9曲を収録。音楽評論家ピーター・バラカン氏は「往年の1960年代のレコードと勘違いする人も多いでしょう。聞いていて足が自然と動き出すこのグルーヴはクセになります」と評している。

 坂野さんがこの街からいなくなって、約2カ月。あなたが弾く「酒とバラの日々」をもう一度聴きたい。(共同通信=石井祐)

試聴はこちらから→https://youtu.be/ydlq4zU03rg

 ※CD「AWA JAZZ」は、アマゾンなど通販サイトから購入できる。

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