江戸時代から伝わる神事「大山能狂言」 継承へ親子対象の教室 伊勢原

講師の松木さん(右)から刀を使った動きを教わる子どもたち=伊勢原市東大竹の中央公民館

 江戸時代から神奈川県伊勢原市内に伝わる市指定文化財の神事芸能「大山能狂言」を担う若い力を育てようと、市内の親子らに舞などを指南する教室が開かれている。試みを始めたのは、地元有志でつくる「大山能楽社保存会」。地域行事の担い手が先細りする中、保存会は「伝統を受け継ぐ一歩になってほしい」との思いを強くしている。

 我を慕(した)ひし国民(くにたみ)の手厚き供養身に受けて-。伊勢原ゆかりの戦国武将、太田道灌(おおた・どうかん)にちなんだ曲「道灌」が、同市の中央公民館の一室に流れる。

 5月7日夜に開かれた教室の初回には、幼稚園児から71歳までの8人が参加。講師を務める観世流能楽師の松木千俊さん(56)さんの動きに合わせるなどして、能狂言の基本動作を学んだ。教室は今秋まで計12回予定されている。

 大山能狂言の起源は江戸時代にさかのぼる。

 大山能楽社保存会の会長で大山阿夫利(あふり)神社宮司の目黒仁さん(66)によると、古くから霊山として信仰される大山では当時、神職、僧侶、山伏の間で争いが絶えず、見かねた幕府が観世流能楽師の貴志又七郎を招き、3者に能を演じさせたことが始まりだ。

 戦中の混乱期もほそぼそと受け継がれ、戦後に神職と地元有志の手で再興。現在は保存会の会員が舞台に立ったり、会場の準備や観覧者の誘導にあたったりして神事を守り続けている。

 一方で、地域住民が名を連ねる保存会の会員は減少傾向だ。1990年代後半ごろまで十数人いた会員は、高齢化や過疎化の影響で今は9人しかいない。将来の担い手となり得る児童生徒らが伝統文化に触れる機会も少なくなっている。

 そこで「まずは興味を持ってもらいたい」(目黒さん)と、保存会が教室を企画。運営には、子どもたちを対象に民俗行事などの伝統文化を継続的に体験・習得させる文化庁の「伝統文化親子教室事業」の委託費を活用した。

 教室に参加した子どもたちの目に、地元の伝統芸能は新鮮に映っている。「難しいけど楽しかった。上手に舞えるようになりたい」と、目を輝かせる。

 教室では今後、能面やはかまの身に着け方、太鼓の打ち方を学ぶ。10月上旬には仕上げとして、地元の大山阿夫利神社社務局の能楽殿で開かれる「大山火祭薪能(おおやまひまつりたきぎのう)」と同時開催する発表会で、練習の成果を披露する予定だ。

 目黒さんは「大山能狂言は娯楽や住民同士の交流の一つ。地域でつくり上げることが原点」と語り、保存会の会員募集も考えているという。火祭薪能に出演したこともある講師の松木さんは「大山は能とゆかりがある地。能とはどんなものかを子どもたちに少しでも感じてもらい、後世に伝わってほしい」と意欲を示している。

 保存会は教室の参加者を随時受け付けている。申し込みは同神社社務局電話0463(95)2006、問い合わせは市教育総務課文化財係電話0463(74)5109。

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