LRT軸に先端の街 センサー結びデータ活用 5Gへの軌道~米国2都市を訪ねて~ (1)スマートシティー

「カンザスシティーのストリートカーは全米で最も成功した事例の一つ。これに伴うスマートシティーの取り組みも、最先端を行っていると言える」

 5月20日、カンザスシティー市役所29階の執務室。スライ・ジェームズ市長は胸を張った。

 同市中心部の北と南を結ぶ約3・5キロのストリートカーが開業したのは2016年5月。車道の端を走り、停留場は両方向合わせて16カ所。スペイン製のモダンな車両(3両1編成)3台が、10~15分間隔で街なかを行き交う。

ダウンタウンに向かって走りだすストリートカー。LRTの導入がカンザスシティーの活性化を促した=5月20日

 「ALWAYS ROYAL」(オールウェイズ ロイヤル=いつだって王者)の文字と、カンザスシティーを本拠地とするメジャーリーグチーム「ロイヤルズ」の選手画像をラッピングした車両も走る。ロイヤルズはかつて、東京ヤクルトスワローズの青木宣親(あおきのりちか)選手が所属したチームだ。

 同市のストリートカーは運賃無料。税金で運営を賄っている。

 「毎日乗っているよ。出掛けるのは楽しいから」。子連れの男性と談笑していた市在住の高齢男性は、乗車理由を語った上で「運賃を取らないことで客を引きつけ、沿線の事業者らに潤ってもらうユニークなシステム。良い仕事をしていると思う」と続けた。

大きな窓で明るい雰囲気のKCストリートカー車内。運賃が無料のため何度でも気軽に乗り降りできる=5月20日

 ストリートカー運営会社などによると1日の平均乗客数は約5700人。土曜日は1万人を超す日もある。開業後3年間の乗客数は600万人を数えた。

 さながらビルのエレベーターを横にしたような、気軽に乗り降りできる無料のストリートカー。導入は住民らの移動の利便性を高めただけでなく、スマートシティー化を推し進める原動力にもなった。

 大きな礎となったのが軌道整備に合わせて地中に埋設した光回線だ。各停留場には、この回線を活用して自立式の情報端末キオスクを置いた。画面にタッチすることで市内の観光スポットやイベント情報、ストリートカーの運行状況などが分かる機器で、観光客らが気軽に利用できる。

メインストリートは、平日の午後9時半を過ぎても人通りが絶えない。通りを照らすストリートカーが夜のにぎわいの一助となっている=5月21日

 街なかには、ルート沿線を中心に無料の公衆無線LAN「Wi-Fi」を整備したほか、通行量などを捉えるセンサーを各所に配備。これら機器から得られたデータと、多様な端末を連携させた取り組みを進めている。人の動きを感知し、明暗が自動調節されるLED街灯も導入した。

ストリートカーを軸としたスマートシティーづくりを推進するスライ・ジェームズ市長。スマートシティー化の恩恵は、観光や経済、防災など多方面に及ぶ=5月20日

 「データは災害の予測や対策などに生かせる。また、通行量を基にタイムセールを行うなど沿線ビジネスにも活用できるだろう」。次代をにらみ無料Wi-Fiの拡充、さらなるスマートシティー化を進めるジェームズ市長はこう強調した。

 同市では5月末、ソフトバンク傘下の携帯電話会社、スプリントによる第5世代(5G)移動通信システムのサービスも始まった。


© 株式会社下野新聞社