カンザスシティーのストリートカー(次世代型路面電車=LRT)は、全米トップクラスの成功事例に挙げられる。しかし導入までの道のりは平たんではなかった。
「1997年から住民投票が行われてきたが、ずっと否決されてきた」
非営利組織ストリートカー運営会社のトム・ジェランド事務局長は説明する。運営会社があるのはストリートカーのルート南端。全米の主要都市を結ぶ長距離旅客列車、アムトラック駅との結節点近くだ。
カンザスシティーエリア交通局、デイビッド・ジョンソン最高戦略責任者によると、市内部で都市内交通の必要性が話題に上り始めたのは70年代半ばごろ。その後、計画が具体化し導入の是非を住民に諮ったが、7度にわたり否決された。
賛成が反対を上回ったのは2006年。しかし、08年には裁判所と評議会から「実行不可能」との判断が下され、プロジェクトは見直しを余儀なくされた。
市は、それまでの全市的エリアへのストリートカー導入計画を「まずはダウンタウンから」と、市中心部を先行する形で規模を縮小。運賃を無料にする一方、ストリートカー沿線周辺を特別課税区として売上税に上乗せ徴収することとし、特別区のエリア住民に賛否を問うた。
「もともとダウンタウンはストリートカー整備に好意的だった。地価上昇への期待もあり、特別課税への反対は少なかった」とジョンソンさん。見直しが決め手となりプロジェクトは14年5月、ようやく着工した。
この間、「ノー」から「イエス」へ市民の共感を広げる出来事が重なった。ストリートカー整備を推進するスライ・ジェームズ市長が11年に誕生したのもその一つ。
加えてインターネット関連サービス会社、グーグルが打ち出した超高速ブロードバンドサービス「グーグル・ファイバー」の整備地に、カンザスシティーが選ばれたことも機運を押し上げた。全米1100の候補地に先駆けた選定だった。
「地元ロイヤルズがリーグ優勝した時のような大興奮だった」。当時、スポーツ関係の画像データを取り扱う仕事をしていたショーン・デイビソンさんは、ネットのスピードを劇的に変えたグーグル・ファイバーの進出が「住民のモチベーションを上げた。若者を中心にクールな街にしよう、ストリートカーに前向きに取り組もうというムードが広がった」と指摘する。
モダンな都市交通の構築、若い世代の流入、起業の活発化。これらが相互に影響し合い、スマートシティーへの流れを加速させた。
ストリートカーの総建設費は102億円。うち連邦政府の補助金は4割。運行費は市が特別税で賄っているが、沿線の不動産税と売上税は順調に伸びている。