スマート化 開発を促進 「誇り持てる街」へ変容 5Gへの軌道~米国2都市を訪ねて~ (5)民間資金

 デトロイト、カンザスシティーともにモビリティータウン、スマートシティー実現の鍵を握ったのが民間資金だった。

 デトロイト再生への道を切り開いたのは、一人の億万長者ダン・ギルバート氏。「故郷への愛なのか、ビジネスチャンスによるものかは分からない。しかし、デトロイト再建の重要人物であり、Qラインは彼なしには成功し得なかった」。市の開発担当、ジャネット・アッタリアンさんはそう解き明かした。

Qライン停留場のすぐ隣で、ミシガン州で最も高い62階建てビルの建設が進む=5月23日、デトロイト

 全米最大手の住宅ローン会社クイッケン・ローンズを率いるギルバート氏は2010年、出身地のデトロイトに本社を移転。下落した中心部の高層ビルを次々と買収し、傘下の不動産開発会社を通じて再開発を行った。そのエリアをつなぐように導入されたのが、官民出資による次世代型路面電車(LRT)「Qライン」だった。

デトロイト中心部で工事中の建造物。デトロイト市財政破綻後の2014年ごろから巨額投資による再開発が進んでいる=5月23日

 グーグル、マイクロソフトといった大企業が進出し、今も大規模開発が続くQライン沿線。経済効果は約7500億円とされ、延伸計画があるエリアへの関心も高い。「Qラインへの投資は、単なる交通機関への投資ではない。地域開発への投資といえる」と、同市経済担当のバジル・シェリアンさんは力を込めた。

 カンザスシティーのスマートシティー化でも、携帯電話会社スプリントとネットワーク機器最大手シスコシステムズが市に協力したのが大きい。同市のスライ・ジェームズ市長は「企業にとっては市道や標識柱を使えるメリットが生まれる。市民サービス向上のため、ウィンウィンの関係を構築するのが市の役割だ」と話す。

停留場に止まったストリートカーの後方交差点を路線バスが横切った。沿線には乗用車の駐車場とバスや鉄道との乗り換え場所が整備されており、公共交通網を使って街中をスムーズに移動できる=5月21日

 結果的にQライン、ストリートカーの導入で街は活気を帯び、住民らの意識も変わった。若者やアーティストらが流入し、起業家同士による事業連携なども始まっている。カンザスシティー在住のショップオーナー、ショーン・デイビソンさんは「かつてのフライオーバータウン(上空を通過される街)から、誇りの持てる街へと変わった。車社会では起こらなかったことが起きている」。デトロイト日本商工会顧問、大光敬史(おおみつたかし)さんも「治安が悪く怖かったデトロイトのイメージは変わりつつある」と指摘する。

 米国は第5世代(5G)移動通信システム時代に突入した。大量の情報が扱えるようになり、AI(人工知能)と連携した遠隔操作やデータ活用などスマートシティーの進化に期待は高まっている。

 5月31日、国土交通省「スマートシティーモデル事業」で宇都宮市の提案が先行モデル事業プロジェクトに選ばれた。大学や民間企業とともに取り組む内容で、センサーやモビリティーを活用した観光振興、さまざまなデータの集積・加工・提供などが柱になる。

 日本では来年、東京五輪に合わせ5Gサービスが本格的に始まる。宇都宮市のLRT開業予定はその2年後。米国2都市の取り組みは一つのモデルといえそうだ。

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