「サッカーコラム」南米選手権 日本代表は“正装”で臨むべし

チリ戦の後半、ドリブルで攻め込む上田(左)=サンパウロ(共同)

 パーティーの招待状をもらった。そこで、さして考えもせず普段着のまま会場に行き、ドアを開けてみたところ驚いた。そこに集まった紳士たちは、全員がフォーマルな正装だったからだ。そして、ちょっと場違いな所にきてしまったと後悔した―。感じとしては、こういうところかもしれない。

 日本時間の6月15日にブラジルで始まった南米選手権。日本代表は1916年に始まったこの歴史ある大会に、99年以来20年ぶりに招待された。

 アジア・カップと同様に、国の代表チームが出場する大陸選手権。それなのに、どうして招待国が参加できるのか。不思議に思う人が多いだろう。それは南米連盟に加盟している国が、トーナメントが組みづらい10カ国しかないというのが一番の原因だろう。よって、同大会は93年大会から2カ国の招待国を加えた12カ国で行われている。

 とはいえ、他大陸からの参加国はベストメンバーを組めるかが問題だ。自分が所属する大陸連盟の公式戦ではない影響で、各国協会に選手の拘束力がないからだ。今回、日本とともに招待されているカタールのように代表チームが自国でプレーする選手だけで構成されているならば、ベストメンバーは協会の一存で決まることができる。一方で、現在の日本代表のように欧州でプレーする選手が多くなると、所属クラブがこれを許さない可能性が高い。ケガでもされれば困るからだ。選手に報酬を払っているのは、所属クラブだ。これには抗えない。

 今回、日本は南米選手権を来年開催する東京五輪への出場が決まっている現在のU―22代表を強化するために活用している。逆の立場なら、出来うる限りのベストメンバーを組んでこない国に対して「失礼だな」と正直思うが、代表のユニホームを着てピッチに立ったら、それは日本代表であることに疑いない。登録23人のうちA代表キャップが一度もない選手が16人も占めるチームが、どのような戦いを演じるかを注目していた。

 日本時間の6月18日朝に行われた初戦。対戦するチリは、南米連盟創立100年の記念大会だった2015年大会と16年大会で連覇を飾っている現南米王者だ。見た目だけでも恐ろしいモヒカン頭のビダルやサンチェスを始めとして、前回決勝戦に名を連ねたメンバーを、日本戦に8人も送り込んできた。対する日本はというと、昨年のワールドカップ(W杯)ロシア大会を経験しているのは柴崎岳と植田直通だけ。植田は出場機会がなかったので、世界レベルの国際大会を経験するのは柴崎一人だけのチームだった。

 屈強な肉体のチリは、試合開始より激しいプレッシャーをかけてきた。肉弾戦に持ち込めば、体の細いアジア人はいずれ疲弊する。日本が勝利をたぐり寄せるための鍵は、このプレッシャーをいかにかいくぐり試合後半まで体力を温存できるかにあった。

 高い個人の能力を誇るチリに対し、組織と集団でいなすことが生命線となる日本。それを考えると、即席チームながら前半の日本は予想以上の戦いを演じたのではないだろうか。それだけに、前半41分の失点が悔やまれる。世代を問わず、日本の弱点といえるセットプレーからの守備。右コーナーキックからブルガルにたたき込まれたヘディングシュートは確かに恐ろしく打点が高かった。それでも、日本DFが体を押えられて競り合えなかったというのも事実だった。

 それでも流れを取り返すチャンスはあった。前半終了間際に柴崎のパスから上田綺世が抜けだした場面だ。上田はGKアリアスを右にかわしシュートを放ったが、ミートする右足の角度が合わずボールはゴールを外れた。

 後半に入りギアを上げ前線からプレッシャーをかけた日本。しかし、歴戦のベテランがそろうチリはこれを軽くかわした。そして、後半9分に決定的な2点目を奪う。右サイドを崩したイスラのクロスをバルガスがダイレクトでシュート。カバーに入った冨安健洋を弾きニアサイドに吸い込まれた。

 0―2とリードされ、日本が唯一流れを引き戻すチャンスがあったとしたら、後半12分のプレーだろう。巧みな動きだしからゴール前で上田がフリーの状況を作り出した。そこに右サイドの柴崎のクロスが寸分の狂いもなく合ったのだが、上田のダイレクトシュートは左に外れた。あの絶好機を決めなければ、シビアな国際試合での勝利は望めない。

 終わってみれば0―4の大差の敗戦。スポットインタビューを受けた森保一監督はポジティブな点として「チャンスを作れた」と語っていたが、サッカーはチャンスの数を競うものではない。得点の数で争うものだ。その意味で若い選手たちが、好機に逃さず得点を重ねてみせた南米王者のしたたかに学ぶものは多かっただろう。大切なのは結果なのだ。特に代表チームは、それが最優先される。

 敗戦から得るものも確実にあるが、要はその経験を次にどう生かすかだ。動きだしに限っては抜群のものを見せた大学生の上田は、シュート時のボールをとらえる足の面の角度さえ正確だったら、大会の大きな衝撃になっていただろう。大きな可能性を秘めている。

 4失点は痛かった。とはいえ、決勝トーナメントの門が閉ざされた訳ではない。次は日本時間21日朝のウルグアイ戦。日本の選手たちは、その間にフォーマルな戦闘服に着替えなければいけない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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