「まだ近くにいるのでは」 住民不安、自治体対応に追われ

逃走車両が発見された現場近くの公園。子どもの姿はなく閑散としていた=20日午後3時半ごろ、厚木市三田

 窃盗などの罪で実刑判決が確定し、地検の収容を振り切って逃走した男(43)=愛川町田代=が、厚木市周辺で潜伏している可能性が浮上した。乗用車で東名高速道路を西に逃走したとみられていたが一転、市内の住宅街で車を発見。凶器を持っている危険性があり、地域住民は不安を深める。一方、安全に直結する事態にもかかわらず捜査当局からの情報提供は不十分だ。地元自治体や教育現場は対応に追われた。

 容疑者が逃走に使用した乗用車は19日午後11時半ごろ、同市三田のアパート敷地内で見つかった。閑静な住宅街。このアパートに住む50代の男性会社員は「まだ近くに潜んでいるんじゃないか」と表情をこわばらせる。

 地元の小中学校に子どもが通う30代の女性会社員は「この辺りは通学路。すごく怖い」。この日、市内の全小中学校は休校となったが、「仕事を休むことにした。家に子どもたちだけ残せない」と不安げに話した。

 この地域は同容疑者の自宅から程近い。同容疑者を知る住民は「どちらかというと明るい性格。逃走するとは思わなかった」。同容疑者の家族と交流があるという自営業の30代の女性は「早く捕まってほしい」と語った。

 住民に広がった緊張は地域の様子を一変させた。公園近くに住む無職の男性(78)は「普段は話し声が聞こえないくらい子どもたちの声が響くが、閑散としている」。2児の父親(34)は「子どもは外に出たいといっているが、公園で遊ばせられない。ストレスが心配」と眉をひそめる。

 3歳の孫と同居する60代の女性は「地域が沈んだ感じ。早く元通りの生活を返してほしい」と訴えた。

 自治体も苦慮する。厚木市、愛川町が車発見を知ったのは、20日早朝のテレビ報道。地検や厚木署から情報提供はなく、市幹部は「情報が得られない」と不満を漏らす。問い合わせても詳細は知らされず、独自の情報収集に追われる。別の市幹部は「出せない情報があることは分かるが、市民の命に関わる。必要な情報は提供してほしい」と注文を付けた。同署幹部は自治体への今後の情報提供について「進展があれば適切に対応する」と話すが、不信感は拭えずにいる。

 教育現場は安全確保と学校再開の間で板挟みだ。市立三田小の幹部は「現状では子どもの安全を保つのは困難。早く逮捕を」。5年生が20日から予定していた1泊2日の校外学習を取りやめたという。

 21日は厚木市が午前6時、愛川町が同6時半までに、それぞれ事態の進展をにらみながら引き続き休校とするか判断する。休校となれば登校時間帯に職員が地域を巡回し、子どもの姿がないかなどの見守り活動も続ける。

◆「あり得ない」 地検対応非難 知事コメント

 傷害や窃盗などの罪で実刑が確定した男が逃走した事件で、黒岩祐治知事は20日、愛川町で収容前に取り逃がした横浜地検の対応について「あり得ない事態」と非難した。報道各社にコメントを発表した。

 知事は、逃走に関する情報が地元に伝えられたのが発生から約3時間後だったことにも触れ、「速やかに連絡されない二重の失態に強い憤りを感じている」と指摘。地元住民らに不安が広がったとし、「安心安全を守る知事として深くおわび申し上げる」と陳謝した。

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