被災後のお金問題、ゲームで理解 ボードゲームで複雑な制度の全体像をマスター

写真を拡大 永野先生考案の被災者生活再建のカードゲーム

山形県沖地震でも役立つ知識

2019年6月18日、山形・新潟で最大震度6強の地震が発生しました。震度6強でも死者がいなかったことは、地域の皆さまの災害対策の努力が大きいと感じています。とはいえ、けがや住宅の被害にあわれた方もいらっしゃいます。命が助かった後は、避難所生活、そしてお金の問題が出てきます。皆さまが無理なく元の生活に戻れることを願っております。

こんな時、「1日も早い復興を」という言葉が使われることが多いですよね。でも、あえて使いませんでした。早く復興しなければと焦ってしまうと、本当は使えるはずだった支援制度が使えないことになり生活にも困ることになってしまったという事例が過去にあるからです。

熊本地震で被害を受けた屋根の修理(撮影:あんどうりす)

例えば、瓦が落ちると、雨漏りが心配だから、すぐ直したくなりますよね。でも、その前に写真を撮ってほしいのです。後からもらえるかもしれないお金の証拠になるので、写真撮影は忘れずに。そして、修理の領収書は保管します。

でも、問題は写真や証拠だけではないのです。ある支援制度を使ってしまったばっかりに、もっとよい支援制度が使えなくなったというケースもあるのです。良い制度が使えればいいのですが、支援制度は複雑で、誰もが理解している状況ではありません。そこで、日弁連災害復興支援委員会副委員長の弁護士・永野海先生(http://naganokai.com)が、誰でも制度を理解しやすいように、ボードゲームを作りました。

ゲームの解説をする永野海先生(撮影:あんどうりす)

無料ダウンロード可

このボードゲーム、無料でダウンロードでき、知識があれば、誰でも使っていいゲームです。支援者の方が理解すればするほど、広げられるというのがありがたいです。

支援者の方に体験していただきたくて、内閣官房国土強靭化推進室と協働の学習会「レジリ学園」で体験会を開いたのが6月18日です(終了後に地震のニュースが入りました)。

写真を拡大 レジリ学園について(内閣官房国土強靭化推進室 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai40/siryo4-2.pdf

ではどんなゲームだったかというと、まずは2枚同じものが置かれている下の用紙の1枚を、チョキチョキはさみで点線に沿ってカットすることから始めます。

写真を拡大 永野海先生のHPからダウンロードできます(http://naganokai.com/wp-content/uploads/2019/06/card.pdf

この大人同士で、無心にチョキチョキするのがいい感じでした。いつも防災関係の固い話をしている仲間も、一気に童心に帰っていくのがわかります。

でも、一枚一枚のカード、切りながら見てみると、カードゲームの「攻撃力」と「防御力」みたいなことが書いてあるんです。

こちらのカード見てください。

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右側の「応急修理制度」。災害後、すぐ修理したいですよね。で、半壊以上だったら58万4000円まで支援金があるというので、これを使って支援金をもらいたくなります。

ところが、このカード、「使うと仮設住宅に入れない」という「防御力」が下がる制度なのです。

そして、あらためて考えてみると、屋根瓦がすべて落ちた、ベランダが落ちた、サッシの開閉が困難になったという様な事例が重なった半壊で、58万円強では正直、お金が足りないですよね。だから、このカード、意外と「攻撃力」も弱いんです。

「障害物の除去」も「仮設住宅に入れない」カードです。床上浸水の場合、障害物は除去したけど、断熱材が上部まで水を吸って、カビがひどくて結局住める状態ではなくなった…と、後から状況が変わる場合も考えられます。このカードのご利用は計画的に…って思ってしまいます。

でも、仮設住宅に行かなくても大丈夫なマンション防災にとって、これらのカードは、使えるカードになってきます。実際に、応急修理制度の58万4000円を個別の部屋の修理には使わず、管理組合で一括して集め、マンション全体の修理にあてることで早期の復興を果たしたマンションもあります。

様々なカードを並べる

さて、そのほか、制度を理解していないとゲームも進められないので、永野先生の解説が始まるのですが、ここではゲームルールを先に説明しますね。

(1)1人でもできるゲームですが、チームで話し合うほうが楽しいし、理解が深まります。1テーブルに3〜6人くらいのチームになります。

チームで話し合うのが楽しい(撮影:あんどうりす)

(2)ハサミで切ったカードの中には白紙カードもあります。参加者が考えた支援を書き込めるカードです。

自由に書き込めるカード

(3)ゲームでは、
被災者の属性(家族構成、収入、貯蓄額、住宅などのローンの額、自宅が持ち家か借家か)
被災の程度(家族の人的被害、自宅の被災の程度、例えば、全壊? 半壊?) が発表され、その人の支援を先ほどのカードを使って考えます。

(4)台紙の上にカードをならべ、支援金の金額を書き込んでいきます。

写真を拡大 この台紙の上に支援制度のカードを置いて考えてみる

使う制度によっては生活の見通しが立たなくなることも

ゲームルールがわかったら、実際に今回のお題を一緒に考えていきます。皆さんが支援しなければいけない方はこの方です。

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被災者の属性と被災の程度が書かれています。

実は、このお題のケースは実際にあった事例なのです。河北新報に掲載された事例を読まれた永野先生が、制度を知らないことによって、これだけ困ってしまった人がいたことに心を痛めて、このゲームを作らなければと思ったそうです。

■<被災住宅修繕未完了>底突く退職金、年金暮らし…自宅損壊のまま生活「追い詰められる」悲痛(河北新報 2019年4月20日付)
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201904/20190420_13026.html

以下、引用です。

東日本大震災から8年が過ぎてなお、津波や地震で損壊した自宅での生活を強いられる被災者は少なくない。仙台市青葉区中山で暮らす無職菅沢啓子さん(67)の自宅を訪ねた。築45年の木造2階。激しい揺れで2階の複数の柱に深い割れ目が入り、1階の天井のはりはずれたままだ。市の修繕状況調査には「一部修繕済み」と答えた。震災で2階のコンクリート敷きのベランダがずれ落ち、屋根が引っ張られてゆがみ、1階のサッシは開閉できなくなった。屋根の張り替え、玄関の修理など補修代金は約800万円に上った。25年勤めた会社の退職金や火災保険の見舞金を充てたものの、直し切れなかった。市の目視による損壊判定は「半壊」。異議を申し立てたが、2度目の判定でも覆らず「津波の被害でもっとひどい人がいる」と言われた。公的な支援は応急修理制度(52万円)と義援金(54万円)だけだった。生活再建支援制度では半壊住宅を解体して建て替えた場合、最大300万円が支給される。菅沢さんは知らなかった。「仕事が忙しく、誰に相談すればいいか分からなかった。知っていれば自宅を解体して新築していた」と嘆く。1人暮らし。震災後、過労や人間関係の悩みでうつ病を発症した。退職金は自宅修繕で使い果たし、年金で暮らしをつなぐ。菅沢さんは悲痛な思いで訴える。「時間がたつほど追い詰められる。どうすればいいか分からず困っている人は他にもいるのではないか」(石巻総局・氏家清志)

図にしたものがこちらになります。

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この方が実際に使った支援制度は、応急修理制度です。ここで58万4000円ではないのは、東日本大震災時の金額だからです。

義援金については、カードではこのように説明されています。

 

この方は54万円もらえたそうです。義援金は、被害が局地的だと1人あたりの金額は大きくなりますが、東日本大震災のように広範囲で甚大な被害があると、1人あたりの金額は少なくなる傾向があります。「南海トラフ地震が起こった際も、甚大な被害が想定されていますから、生活再建には程遠い金額になることが想像されます」と永野先生のお話です。

支援制度で得たお金と25年働いて貯めた800万円もすべて使って900万かけて家を修理したものの、修理しきれなかったこの方は、年金で暮らしをつないでいるとあります。災害後は、建築資材が高騰します。せっかく貯めたお金があっても修理しきれないということが、このように実際には起こっています。そればかりか心労が重なりうつ病も発症してしまったとあります。

ここで、記事に、このように書かれていましたね。

<生活再建支援制度では半壊住宅を解体して建て替えた場合、最大300万円が支給される。菅沢さんは知らなかった。>

もっと暮らしを支える支援制度があったのです。でも、誰に相談していいかわからなかったために、追い詰められてしまったとあります。これは、過去の問題ではなくて、今回の山形県沖地震でも、支援制度を知っている人に繋がることができなければ同じ問題が繰り返されます。そのようなことがあってはいけないですよね。

ベストな方法を真剣に話し合いました(撮影:あんどうりす)

ゲームでは実際にどのような支援が可能だったか話し合いました。単に支援カードを見ながら考えるだけではなく、被災者の人生に寄り添って支援制度を考えるとはどういうことなのか、参加したみなさんと意見交換もしました。

こちらは参加された方の感想です。

とても良い場を教えていただきありがとうございました。細かいところまでよく練りこまれていて、感銘を受けました。生活再建に向けてのさまざまな支援は、それぞれ単体では見聞きしていたものの、お互いが有機的に関係しあうことや、どのサービスを利用するかは、自分の将来の幸福のあり方を考えることと結びつくなど、今まで考えたこともなかったような気づきに満ちていて感動モノでした。

支援制度は有機的な関連がわからなければ使いこなせなかったりします。それらがじっくり学べるこのゲームの真髄について、次回引き続き報告します!

(了)

 

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