かなしみのおもり

 つい誤読したのを聞いたらしい。〈「かなしみのあまり」を少女誤りて「おもり」と読めりおもりなるべし〉大江昭太郎。悲しみはなるほど、胸に沈んでいく重りのようだね。「おもり」で間違っていないよ。そんな歌だろう▲小さな命が胸に抱えきれる重りなどあるはずはないと、児童虐待の末の悲報に触れるたびに思う。今月には札幌市で2歳の女の子が衰弱死し、傷害容疑で母親と交際相手が逮捕された▲親による子どもへの体罰を禁じる。児童相談所の体制を強化する。そうした内容を盛り込んで、児童虐待防止法と児童福祉法が改正された。来年4月に施行される▲「しつけ」と称する虐待が後を絶たない。「子どものため」と言い張っても、痛みと恐怖を与え続ける親の言動を「しつけ」とはもう呼ばない。それが社会の決まり事になる▲家庭内であろうと、小さな命に振るわれるひどい暴力には、法と社会が目を光らせるしかない。児童相談所がためらわず保護に踏み切るにはどうするか。胸に沈む「かなしみのおもり」を受け止めるために、考え、やるべきことは山とある▲わたしの命、僕の命は誰のもの? 小さく、幼い命に問われたとしたら、どう答えよう。「君のものだけど、君一人のものじゃない」。社会で守る命と思えば、答えはこれしか浮かばない。(徹)

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