北方領土引き渡し拒否「公約」、安倍政権が招いた結末

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太田清

共同通信大阪支社統括整理部長

太田清

共同通信大阪支社統括整理部長

共同通信社入社後、広島支局、大阪社会部、外信部、経済部、ベオグラード支局、モスクワ支局、ローマ支局、47NEWS編集長などを経て2019年10月より現職。イトマン事件、阪神大震災、コソボ紛争、ユーゴ空爆、モスクワ劇場占拠、アフガン紛争、ギリシャ財政危機、東日本大震災などを取材。

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ロシアのプーチン大統領=3月15日、モスクワ(タス=共同)

 ロシアのプーチン大統領は22日放映のロシア国営テレビの番組で、北方領土でロシア国旗を降ろす「計画はない」と断言、日本への引き渡しを拒否する考えを明確にした。プーチン氏が公の場で、これほど明確に「北方領土を渡さない」と明言したのは、少なくとも、昨年11月のシンガポールでの安倍晋三首相との首脳会談で日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意、日本側で領土問題解決への期待が高まってからは初めてだ。交渉担当者のラブロフ外相は強硬姿勢を繰り返してきたが、大統領の発言は重みが違う。

 今回の大統領の発言を受け、いつものようにプーチン氏が「領土問題で日本をけん制」したと報じたメディアもあったが、けん制などという甘いものではない。ロシア国民に対し、金輪際、領土を引き渡すことはないと「公約」したに等しい。 

 発言はロシア国営テレビのニュース番組「ベスチ・フ・スボーツ(土曜日のニュース)」でのインタビューで行われた。同番組は日曜日の「べスチ・ニェジェーリ(1週間のニュース)」と並ぶ国営テレビの看板ニュース番組で、著名ジャーナリストのセルゲイ・ブリリョフ氏が司会している。 

 同氏はプーチン氏への全面的な支持を公言し、プーチン氏を一度も批判したことがない(当然ながら、だからこそ国営テレビのニュース番組司会者に抜擢された)ことで有名で、べスチ・ニェジェーリのキャスター、ドミトリー・キセリョフ氏と並ぶ「クレムリンのプロパガンジスト」(野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏)とも評される人物だ。 

 こうした人が司会する国営ニュース番組に出演し、28日から始まる20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)を前にインタビューで領土問題について話すというのは、それだけで大統領の現時点での考えをできるだけ広範な国民階層に知ってもらいたいというクレムリンの意向があると考えるのが自然だろう。今年3月にロシア経済界との非公開会合で、プーチン氏が日ロ交渉に言及し「テンポが失われた」と発言、有力紙コメルサントがその内容をすっぱ抜いたのとは全く違った次元の話なのだ。 

 インタビューは政府発行のロシア新聞を含め多くのメディアが報道。一部メディアは北方領土の引き渡しをしないことを「プーチン大統領が公約」(ブズグリャド紙)、「プーチン氏は領土問題を終わらせた」(ニュースサイト「ガゼータ・ルー」)などと、日本との交渉は終わったかのような見出しで報じた。クレムリンがこうした意思決定をし国営テレビで“声明”を出した以上、「交渉は難航が予想される」どころか、G20大阪サミットの場での大筋合意はおろか、安倍首相の任期中の領土問題での大幅な前進はなくなったと考えるのが常識ではないか。

 日本にとっては厳しい話ではあるが、これも、民族意識の高まりやプーチン氏の支持率低下、外務省をはじめとする抵抗勢力の反対というロシアの国内情勢を甘く見て、拙速に「2島プラスアルファ」との妥協策で戦後未解決のこれほど困難な交渉をまとめようとした安倍政権の政策の当然いきつく結果ではなかったか。そうした動きを背景に、同様にロシア国内の状況を読み間違え領土問題の解決は近い、あるいは少なくとも大きな進展がある可能性を吹聴した報道も多くあった。北方領土問題の解決を外交の主要課題と明言してきた安倍政権は今後、交渉の頓挫を受けて、どのような総括をするつもりなのだろうか。

 インタビューで、プーチン氏は「ロシア政府が策定した南クリール諸島(北方領土)を含む極東地域の大規模な開発計画を実現していく」と表明。新しい空港など「インフラも整備していく」とした。ブリリョフ氏がさらに、「ロシア国旗を降ろすことにはならないか」と質問すると、プーチン氏は「そうした計画はない」と否定した。 (共同通信=太田清)