<参院選>北方領土見放すのか 岩手の元島民、2島返還案で論戦期待

©株式会社河北新報社

「2島返還で終わらせてはいけない」と訴える真下さん

 東北の北方領土出身者が、自民党の参院選公約「北方領土問題の決着」に不安を募らせている。4島返還を求めて日ロ交渉を後押ししてきたが、歯舞群島と色丹島の2島返還案に事実上転じた政府に「私たちを見放すのか」と疑問を投げ掛ける。高齢化する元島民たちにとっては、参院選の大きな論点だ。

 「安倍晋三首相は歴史に名を残そうと焦っているのではないか。2島返還で戦後処理が終わったことにされてはたまらない」。国後島出身の真下(まっか)清さん(83)=岩手県九戸村=は現状への不満をあらわにする。

 真下さんは国後島東部の礼文磯地区で生まれた。10人きょうだいの四男で、父親はコンブ漁で生計を立てていた。近くの川はサケであふれ、自然豊かな土地だったという。

<「形だけの交流」>

 1945年の終戦で北方四島は旧ソ連軍に占領された。48年8月に真下さん一家は島を追われてサハリンや北海道函館を転々とした。同年9月、父の古里である岩手県戸田村(現九戸村)にたどり着いた。

 両親は50年に相次いで死去。真下さんは郵便局に勤務し、村議や収入役を歴任した。

 国後島には2003年以降、5回訪れている。領土問題解決の一助になればと参加したビザなし交流事業だったが「ダンスなど形だけの交流。外務省は本気で領土返還交渉を進めているのか」と疑問を持った。

 真下さんの願いとは裏腹に安倍首相とロシアのプーチン大統領は昨年11月、2島引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言に基づく交渉加速で合意した。

 日本政府は19年版外交青書から「北方四島は日本に帰属する」との表現を削除して譲歩の姿勢を示したが、ロシア側は返還後に日米安全保障条約に基づく米軍の展開を懸念。日ロの溝は埋まっていない。

 「4島返還要求を崩すべきではないが、ロシアは帰属権を譲らないだろう」と真下さんは交渉の先行きを分析する。

<過去の姿重なる>

 真下さんは現地で出会ったロシア人の言葉が忘れられない。「島を日本に返してもいいが、私も一生をここで終えたい。日本に病院や水道を整備してほしい」。敗戦で島を追われた自らの過去が重なって見えた。

 「北方領土へ定期船が就航し、自由に行き来できるようにしてほしい」と真下さん。参院選の論戦を通じ、少しでも有権者の関心が高まることを願っている。

◎返還求め活動の地方議員「説明不足」と不信感

 北方領土の返還要求運動は各都道府県に組織があり、多くが草の根保守の地方議員を中心に活動している。2島返還で決着を図ろうとする政府に「説明不足だ」と不信感をにじませる。

 「北方領土返還要求運動岩手県民会議」は17日、盛岡市で総会を開催した。色丹島訪問、パネル展開催など返還機運を盛り上げる事業計画を承認した。

 会長の佐々木順一岩手県議会議長は「4島返還は不変の要求だったはず。政府には説明責任がある。外交交渉とはいえ、できる限り国民にメッセージを発信すべきだ」と注文を付ける。

 仁田和広宮城県議は2000年、経営する水産会社の漁船が北方領土近海を航行中にロシア側に拿捕(だほ)された経験を持つ。

 「2島返還を具現化すべきだ」としつつ「拿捕や銃撃事件が相次いだ歴史も忘れてはならない。日ロ両国民が心から和解できる取り組みが必要だ」と話す。