小冊子「よむカステラ」創刊25年 松翁軒年1回発行 「読んで奥深さ味わって」

「よむカステラ」について、「無理なく読めるようなスタイルを続けたい」と語る山口喜三さん=長崎市魚の町、松翁軒本店

 松翁軒(長崎市)が年1回発行している小冊子「よむカステラ」が創刊25年の節目を迎えた。25号のテーマは「九州、長崎ば、好いとっと」。立三味線の杵屋(きねや)勝国さんや万葉学者の上野誠さんらのエッセー、2017年に亡くなった北九州市出身の作家、葉室麟さんの特集などを掲載している。

 よむカステラは、松翁軒10代目当主の故山口貞一郎さんが「カステラを通して長崎を、南蛮・紅毛を、日本文化を、そしておやつを考える」をコンセプトに創刊。長崎の郷土史家、故田栗奎作さんが1955~67年に刊行していた小冊子「長崎手帖」に倣ったという。

 これまで妹尾河童さん、村上龍さん、田辺聖子さんら多くの文化人が、長崎と食文化、生活など毎号のテーマに基づいて寄稿し、カステラを購入した人などに無料で配布してきた。21号からは11代目の喜三(きぞう)さんが発行人を引き継いでいる。喜三さんは「創刊号から読み返すと、父の思いに触れ、あらためて気づくことがある。これを読みながら、カステラの奥深さを味わってほしい」と話す。

 今号の特集「葉室麟の世界」では、葉室さんと親交のあった作家で本紙に「家康 知命篇」を執筆中の安部龍太郎さんや新聞記者ら3人が寄稿。その人柄や九州愛を振り返る。安部さんは葉室さんの訃報に接し、「自分でも意外なほど喪失感に打ちのめされた」と告白。「聖者たらんとした人の生きざまの終わりを突き付けられたからだという気がしてならない」としのんだ。

 このほか、エッセイスト森下典子さんや長崎史談会の原田博二会長らのエッセー、創刊25年を記念して昨年松翁軒本店で開催した俳優小松政夫さんのトークイベントのリポートも掲載している。A5判、35ページ。本店や支店で希望者に配布中。

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