ヘイトスピーチ、「50万円以下の罰金」 川崎市条例素案

 川崎市は24日、あらゆる差別を禁止し、根絶を図る「差別のない人権尊重のまちづくり条例(仮称)」の素案を公表した。ヘイトスピーチ対策として福田紀彦市長が導入を明言した刑事罰については、「50万円以下の罰金」とする。市の勧告、命令に従わずにヘイトスピーチを繰り返した場合にのみ適用する仕組みを取り入れて過度の規制を防ぎ、人権擁護と表現の自由の保障を両立させる案も明記された。

 素案によると、条例では全ての市民が生き生きと暮らせるまちづくりを掲げ、人種や国籍、民族、性的指向、出身、障害などを理由にした差別の禁止を明示する。ヘイトスピーチに関しては在日コリアン集住地区の川崎区桜本を標的にしたヘイトデモが再び行われる恐れが続いていると判断。実効性を確保するために刑事罰を導入するとした。成立すれば全国で被害が続くヘイトスピーチへの刑事規制が初めて実現する。

 刑事罰の導入に当たっては正当な表現行為を侵害しないよう配慮する。ヘイトスピーチ解消法における差別的言動の定義を▽市内の道路や公園など公共の場で行うもの▽国外退去や危害を告知したり侮蔑したりするもの▽拡声器を使ったりビラなどで配布されりしたもの-と限定化かつ明確化した。

 運用面でも、市長による勧告、命令と段階を踏み、それでも従わなかった場合に氏名の公表と罰則に踏み切る。条例違反として市が検察か警察に告発する形を取るほか、恣意(しい)的な判断とならないよう勧告、命令の際は有識者でつくる「差別防止対策等審査会」に意見聴取する。罰金額は刑法の名誉毀損(きそん)罪や県迷惑行為防止条例を参考にした。

 インターネット上のヘイトスピーチは罰金の対象外だが、事例の公表や削除要請などの拡散防止措置を行う。このほか▽市と市民、事業者の責務▽差別解消・人権尊重に関する施策の基本計画策定▽教育・啓発の推進▽人権侵害の被害者支援-も盛り込んだ。

 市は7月8日から8月9日までパブリックコメント(意見公募)を実施。12月議会で成立させ、同月下旬に一部を施行、2020年7月に罰則を含めた全面施行にするとしている。

 素案の公表を受けて会見した神原元弁護士は「差別を包括的かつ明確に禁止した進歩的な条例案だ。刑事罰についても定義や運用で表現の自由に配慮した内容になっており評価できる」と評した。

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