「トラックに乗せられ、核実験場に消えた人々」北朝鮮もう一つの闇

今月20日、中国の習近平国家主席は北朝鮮を公式訪問し、金正恩党委員長と首脳会談を行った。両首脳の会談は5回目となるが、習氏が訪朝するのは初めてだ。会談前には、習近平氏が北朝鮮から非核化に向けた具体的な措置を引き出せるかが注目されたが、非核化に関しては大きな成果は得られていないようだ。

北朝鮮の非核化をめぐっては、昨年6月に行われた史上初の米朝首脳会談直後は、大きな進展が見られるかもという期待感もあったが、時間が経つにつれそう簡単には進まないという認識が広がりつつある。そもそも非核化が一気に解決するということはありえない

それでも北朝鮮の非核化を放棄してはならない。なぜなら、北朝鮮の核開発の裏では深刻な人権侵害が隠されている疑いが極めて強いからだ。昨年5月24日、第1回目の米朝首脳会談直前に北朝鮮は豊渓里(プンゲリ)にある核実験場を爆破し、非核化の意思をアピールした。これについて、核開発の証拠隠滅との指摘もあったが、強制被曝労働の証拠も消されているかもしれない。

実は、豊渓里近くには、悪名高き政治犯収容所「16号管理所」(化成〈ファソン〉収容所)が存在し、ここに収容された政治犯が、核実験施設で防護服なしで強制労働させられていたという情報があるのだ。収容所の警備兵出身で脱北者の安明哲(アン・ミョンチョル)氏は、「若くて元気な政治犯たちがトラックに乗せられ、『大建設』という名目で核実験施設に連れて行かれた」と証言している。

北朝鮮当局にとって政治犯は「敵対勢力」であり、強制労働させても被ばくさせても何ら罪の意識を感じないようだ。むしろ徹底的な罰を与えることにより、北朝鮮住民の間に政治的に国家に刃向かうことを絶対に許さないという恐怖を植え付けている。だからこそ、政治犯収容所では、拷問、公開処刑などありとあらゆる人権侵害が常態化するのだ。

米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は今月6日、北朝鮮寧辺(ヨンビョン)核施設団地のウラン濃縮工場で活動が見られると報じた。韓国の情報機関である国家情報院は3月29日、国会情報委員会の場で「寧辺5メガワット原子炉は昨年から稼働が中断し、再処理施設の稼働の兆候はないが、ウラン濃縮施設を正常稼働中と判断している」と述べている。

北朝鮮の核開発は人権侵害と表裏一体であり、安全保障上容認できないのは無論だが、人道的にも許されることではない。

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