社会全体で

 心に残る文章は、ノートに書き留めるのを習いにしてきた。昨年11月には本紙「声」欄の一文を書き写している。マイカーで何度も走った道なのに〈バスに乗ると目線が高いため、窓から眺める景色は新鮮で、見知らぬ街を見ているようだった〉▲70歳を迎えて車の運転がおぼつかなくなり、移動の手段をマイカーからバスにしたという男性の投書で、読むと清新な心持ちをお裾分けしてもらう気がした▲社会を見渡せば、もちろん新鮮な眺めばかりではない。近ごろの「声」欄を読んで、高齢ドライバーの「これから」の景色は穏やかではないとあらためて知る▲6月14日付、68歳男性の投書は、運転免許の更新を〈ある年齢で制限する〉よう義務化を、と書く。16日付、88歳の男性。安全装置付きの新車を買ったが、事故が案じられ〈免許返納を予定している〉▲19日付、75歳の女性。バス停まで遠くて車が要ると言い、国が何割か負担して〈高齢運転者の車に安全装置を義務付けてもらいたいのです〉▲高齢ドライバーによる重大事故があるたび、きっと数知れない人が心を痛め、頭を悩ませている。運転は大丈夫か。どうやって加齢による差し障りを技術で補うか。運転しなくても暮らせる社会にできないか。社会全体への問いであり、応えるのに待ったなしの問いでもある。(徹)

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