奈良美智、ヨルダンの難民キャンプを訪れて感じたこと…「故郷」への思い

©株式会社J-WAVE

6月20日は世界難民の日。難民問題の関心を高めるため、毎年世界各地でさまざまなイベントが行われてきました。今年3月にヨルダンの難民キャンプを訪れた奈良美智さんを迎えて、難民問題について考えました。

【6月19日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190619201940(2019年6月26日28時59分まで)

■難民キャンプ、「ザータリ」と「アズラック」の違い

奈良さんは、2002年にアフガニスタンとパキスタンを訪れたことをきっかけに、難民問題に関心を持ちました。ヨルダンの難民キャンプを訪れた経緯は何だったのでしょうか。

奈良:国際支援をしている団体を後方支援する特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォームが、東日本大震災で支援をしようとなったときに自分が寄付したり、印刷物を作るときに協力したり、自分の絵の画像を提供したりして知り合いになりました。しばらくコンタクトはなかったんですけど、急に「シリアの難民のキャンプに行くのはどうですか?」と声をかけられて、「うん」と返しました。

現在、ヨルダンには大きな難民キャンプが主に二つあり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が管轄をしています。一つは「ザータリ難民キャンプ」。ヨルダンの北部にあり、シリア国境から15キロほどしか離れていません。およそ8万人が暮らしていて、半数以上が18歳未満です。もう一つが「アズラック難民キャンプ」。こちらの人口規模は4万人以上です。

安田:どちらがいいとは一概には言えないのですが、ザータリ難民キャンプはかろうじて近くに集落の姿が見えるんです。アズラック難民キャンプは、とにかく何もない荒野にポツンと難民キャンプがあります。環境の印象はどうでしたか?
奈良:アフガニスタンやパキスタンのキャンプは国連が関与していなくて、自然にできたり、ごちゃごちゃしている感じでした。鉄条網で囲われていなくて、誰が難民で誰がもともとの住民なのかもわからず、カオスな状態だったんです。ところが、ザータリでもアズラックでも管理がしっかりしていて、そういうところを見たのは初めてでした。すべて鉄条網で囲われていて、入るときも「悪いことしていないのに、ここで捕まっちゃうんじゃないの?」って思うくらい検査を受けて、びっくりしました。

一方でザータリ難民キャンプには、奈良さんが見てきたアフガニスタンやパキスタンの難民キャンプと似ている部分もあったそうです。

奈良:人々が生活をそのまま持ち込むことができていた、あるいは生活を新しく始めて、それが根付いている感じがありました。最初はみんな同じような家を与えられたと思うんだけど、自分で改良したりいろんな物を積み足したりして、あとは馬やロバも走っているし、活気があるんです。

それに対してアズラック難民キャンプでは、似たような形の住居がとても規則正しく並んでいたと言います。

奈良:あまりにも整理整頓、組織化されて、人間が本来持っている自由度が少なくて、そういうものを出せないんじゃないかと思いました。年数もあるんだろうけどザータリはすごく活気があって、かつて犯罪や事件があったことをきっかけに、アズラックでは管理しようとなったと聞いたんですが、ちょっと管理しすぎじゃないかなと思いました。

■難民キャンプで行った「故郷」の授業

奈良さんはザータリ難民キャンプの学校で、自身が生まれ育った故郷・青森県に関する授業をしました。

奈良:雪が降っている中で遊ぶ鼻水が垂れた子どもや、学校の中で山羊を飼っていたことなど、僕が子どもの頃に見た風景のスライドショーを見せました。
安田:青森県の学校で山羊を?
奈良:僕が生まれた頃は地方格差がすごくて、テレビドラマで見るような東京の暮らしが地方にはなくて、非常に貧しい地方が多かった。そういう青森県や北東北、九州の南の方の風景から、60年代から70年代にかけて高度経済成長で格差がなくなっていく過程を見せました。でも僕の心の中に残っているのは、子どもの頃に羊や山羊と遊んだことや、馬にお尻を噛まれたことなんです。

美術についての授業も少しだけしたという奈良さん。授業が終わり質問があるか問いかけると、子どもたちはみな手を挙げて質問してくれたそうです。

安田:どんな質問が印象に残っていますか?
奈良:質問自体はどこの国の子も変わらない。「犬が好きなんですか?」とか「犬ばっかり描くんですね」とか「どうやったら画家になれるんですか?」とかでした。

■おもてなしの文化がある

難民キャンプでは、各家庭に訪れて買い物や料理も体験した奈良さん。World Food Programme(国連WFP)が支援しているスーパーマーケットのようなところでは、物資の豊富さに驚いたとのこと。システムが整っていて、そこには食料が絶えずあるそうです。

安田:ご飯を一緒に食べてみてどうでした?
奈良:まずシリア料理がおいしかった。レモンをよく使っていて。
安田:モロヘイヤもおいしいですよね。シリアの方のおもてなしはどうでした?
  奈良:本当に歓迎してくれてお茶も出してくれるし、もったいないくらいいろんなことしてくれて、そういう習慣なんですよね。

キャンプには絵が好きな人のためのスペースがあり、そこでは現地の画家との交流も深めたと話します。

奈良:そのスペースの代表者である30代の画家さんがいい人で、予定にはなかったんですけど、「君の家に行っていいかい?」と訊いたら「いいよ」と言ってくれて。そこでも歓迎してくれました。家の中でも絵を描いていて、他の人たちの家とはちょっと違っていました。美大生みたいでした。

■輝ける子ども時代を思い出すことで前に進める

難民キャンプには「故郷」を追われて生活する人もいれば、難民キャンプが「故郷」のような存在になる子どもたちもいます。難民キャンプで「故郷」の授業をした奈良さんに、改めて「故郷」について伺うと、このように考えを語りました。

奈良:いつも引っ越しばかりしている友だちが、「自分は故郷がないんだ」とよく言っていたんです。自分の自我が芽生える時期に、ある程度の期間一つのところに住んで仲間ができたり、いろんな経験をすると、いい思い出ができると思うんです。大人にとっては田舎で貧乏だったりするかもしれないけど、子どもにとっては、輝ける時代なんじゃないかなと思う。自分も故郷を思うときは、いい思い出しかない。もちろん大人になったら比べちゃうことはあるけど、輝ける子ども時代を持っていたら、それを思い出すことで前に進めるんじゃないかと思います。

現在も全世界で約6000万人が避難生活を送っています。最後に安田は、「シリア内戦は8年以上が経ち支援疲れもありますが、本当に疲れているのは現地で避難生活を送っている方々だと思います。改めて自分たちが持ち寄り合える役割は何かを考えていただきたい」とリスナーに語りかけました。

この記事の放送回をradikoで聴く(2019年6月26日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時−21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld

【関連タグ】
JAM THE WORLD   安田菜津紀   国際   社会   奈良美智   難民