毒親被害と「男女差」を考える――彼が切り裂きたかったのは“へその緒”だった【田房永子×音咲椿対談】

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 『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)ほか著書で、29歳のときに縁を切った母親との葛藤を描き、コミックエッセイで初めて「毒親」と呼ばれるジャンルを生み出し『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』(大和書房)を6月22日に刊行した田房永子さん。元彼の母が毒親で、一方的に婚約を破棄された経験を『私の彼が毒親から逃れられない!~婚約破棄で訴えてやる・番外編~』(サイゾーウーマン)で描いている音咲椿さん。音咲さんの元彼が毒親から逃げられなかったのはなぜか。毒親との関わり方に性差はあるのか。旧知の仲の2人が語り合った。

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田房永子さん(以下、田房) 音咲さんの元彼・Nさんって、2、3回会ったことがあるけど、どイケメンですよね!

音咲椿さん(以下、音咲) きれいな顔ですよね(笑)。でも残念な結果になってしまいました。決定的な事件は、お義母さんが「同居しろ」と言い出したことだったんです。私も彼も「同居はしない」と団結していたはずでした。なのに、いつの間にかNは寝返っていて……以来、彼に電話をしても着信拒否。すでに2年も同棲していたのだから、普通なら別れるときは2人で話し合って別れると思うんですが、一切なにも言わず、一方的に婚約破棄されました。

音咲 納得がいかず調停を起こしたら、お義母さんから「お宅とは婚約していませんから」と、“何もなかった”ことになって。お義母さんは「いますぐ50万円払え」といった無理難題を要求してきたり、彼の仕事(エロ漫画家)について「汚らわしい」と暴言を吐いたり……。彼が仕事できないくらい、ひどい状況だったんです。だから彼も、お義母さんから絶対に離れたいはずと思っていたのに、結局離れなかった。

田房 その手のお母さんって、かぐや姫みたいにありえない要求を課してくるよね。本当は50万円なんてどうでもいいんですよ。それは罠。Nさんが音咲さんのほうに行かないようにしているだけ。「自分のところにいなさい」という脅しだと思うよ。

音咲 やっぱりそうなんだ!? お義母さんは、『母がしんどい』のエイコのお母さんと似ていると思うんですよ。お義母さんは、以前は私を自分の実家の墓参りにまで連れていってくれて。「大好き!」「あなたは家族の一員ね」という感じで、接してくれていたんです。

田房 お義母さんが音咲さんのことを「好き好き」と言ったのは、「私の懐に入りなさい」と同じ意味だと思うよ。自分が知らないところで、Nさんと音咲さんが仲良くしているのは嫌。両方とも単独で自分が手に入れたい。でもその気持ちを自覚しているわけではないから、ハチャメチャなことになる。そういう人はその場の衝動と不安に突き動かされていて、心の中は常にパニック。だから他人を引っかき回す一方で、「お嫁さんと仲良く出かける義母でありたい」という思いもあって、周りは惑わされるんです。私の母もそういう感じだった。

田房 でも、今はお互い年を取ったのと、私が離れたことによって母もいろいろ考えたのかわからないけど、変わりましたね。離れることは重要。その人のパニックに巻き込まれている最中に「お互い落ち着きましょう」と言うのは無理だから。まず離れて、お互いが自分の本当の心を見つめる。その作業には10年くらいかかるんですよ。

音咲 私も10年間、怒りと悲しみがすごかった……。なぜあそこまでお義母さんに憎まれなければならなかったのか、今もわからないです。

田房 音咲さんの人格は関係ないよー。私が悪かったとか、落ち度があったとか思う必要はまったくないから。彼がお義母さんと離れられないのは彼の問題だし、音咲さんは100%被害者。そういう人に巻き込まれてしまう要素はあるかもしれないけど、それは、自分の心が回復したあとで考えること。

音咲 “理想の嫁”じゃなかったのかなとか、考えてしまうんです……。

田房 “理想の嫁”なんか、ないないない!

音咲 Nのことがすごい好きだったのに、2人で生活した2年間、交際期間を入れると3年間を“何もなかった”ことにされたことがすごく悲しくて、受け入れられなくて。しかも、お義母さんから調停で「バカ女」と追い掛けられて、殺されてもおかしくない状況。2018年に、息子が妻を殺して母親と死体を遺棄した事件があったでしょう。あれ、私だったかもしれないと思った。

田房 心理的にはそれ(殺人)が起こってるんだよ。肉体的には殺されていないけど、彼らの世界のなかでは「殺さなければならない」ということだったのだと思う。

音咲 すごかったのが、Nとお義母さんのけんか。お義母さんが「同居しろ」と言ってきたときに、Nは「絶対に嫌だ」と言って電話をずっと無視していたんです。そしたら、お義母さんが私たちの家に押しかけてきたんですね。詳細はマンガに描きますが、渡していない家の鍵まで手に入れてて。それを知ったNが「殺してやる」と包丁を出して玄関に走って、「これはヤバい」と思った瞬間、お義母さんがドドドドッと入ってきた。

田房 ええ~! 怖い! なぜ!? 内側からもチェーンロックはしてたんですよね?

音咲 Nがロックを外しちゃったんです……。最終的には、義母がNに「許してあげる」と言って終わりました。

田房 オマエが引っかき回しておいて、何を許すんだという話。

音咲 私はそのとき、親子げんかで包丁が出てくるなんて、結婚したら今度は私に刃が向かってくる!? と思って、怖くなってしまって。

田房 その時Nさんが包丁で切ろうとしたもの、それは「へその緒」ですよ。Nさんはまだ胎児で、お義母さんのお腹の中にいるような状態。成人している子どもを「胎児扱い」するお母さんっているんだよね。子どものほうはいつまでもお腹の中にいられないから、自分の母親はこういう人だと認めて、自力で生まれないとならない。だから、Nさんは「へその緒」を包丁で切ろうとした。内側からの帝王切開。本気で殺したいと思ったんじゃないと思う。その視点で考えるともしかしたら、当時のNさんは、自分の母よりもっと強い女の人に救い出してほしかったんじゃないかな……。代理母ではないけど、音咲さんの子宮・羊水を貸してもらって、僕を「生んでくれ」というような。彼にとってはそういうレベルの戦いだったんじゃないかな。

田房 私も、Nさん側として自分を振り返ると、自力で生まれるのってすごく難しかった。家出して当時の彼氏の家に転がり込んで、寄生させていただくみたいな感じで、依存先が必要だった。いきなり母親と1対1の尊重し合える関係にはなれない。いったんどこかで、「母親以外の胎内に入ってから、生まれる」という作業が必要な気がする。でも、それって殺し合いになるよね。お義母さんにしてみれば、自分の赤ちゃんを取られることだから憎いでしょう。

音咲 別れてから10年たって、今は心の整理がだんだんついてきたんですけど、3年ほど前まではフラッシュバックする憎悪でパニックになるたび、50代の精神科医のボーイフレンドに向かって、ひどい暴言を吐いていました。精神科医だからどうにかしてくれるんじゃないかとすがる気持ちもあって。絶対、そんなことないんですけどね。それであるときにふと「自分もお義母さんと同じことしてる」と思ったんです。過去にNが「君って僕のお母さんに似てるんだよね」とニコニコして言っていたのを思い出しました。

田房 その言葉、めちゃくちゃ怖いね。

音咲 Nに言われて一番ショックだったのは、「ドイツで3カ月芸術の勉強したい」と言ったら、すごく怖い顔して「君は僕の奥さんになる人なのに!?」と言ったことですね。普段は「勉強したい」という私が好きだと言っていたんですよ。きれい事ばかり言ってるわりには、やっぱり縛り付けるんだと思った。彼の後ろにはお義母さんがいるんです。「そんなことしたら、うちの母がなんて言うかわからない」「そんなお金があることが母に知れたら、どう思われるか」と。私が稼いだ金で行くのに。

田房 たった3カ月でしょう? 30年行ってくるわけじゃないし。しかもまだ結婚していないカップルだし。

音咲 もともと寛容に繕ってたのかもしれないですね。結局、Nは私にも好かれたいし、お義母さんにも好かれたかった。その狭間で揺れていたのかもしれない。Nの口からどうしてこんなことになったのか直接聞きたかったけど、調停にも親子3人で来たんです。調停って、本人ひとりしか入れないにもかかわらずですよ。それでも「中に入れろ!」と調停員とモメていました。私は弁護士を立てたんですが、弁護士との話し合いにも3人で来たそうです。弁護士さんに「彼はなんて言ってました?」と聞いたら、「一言もしゃべらなかったですね。お義母さんがしゃべって終わり」と。「今後一切かかわらない」という合意書にはNの名前が書いてあったんですが、それはお義母さんが「こう書いて」と指示していたそうです。

田房 “ささやき女将”みたい。すごいね(笑)。

音咲 そう、全部お義母さんのいいなり。ただ、慰謝料の振り込みの名義人はNでした。

後編に続く・6月26日公開予定


音咲椿さんの作品『婚約破棄で訴えてやる!』は、電子書籍にてご覧いただけます。連載中の番外編はこちら

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