本日6月26日はジェリー藤尾の誕生日~歌い続ける「遠くへ行きたい」

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坂本九や森山加代子がいたマナセプロダクションに所属し、60年代初頭から映画・テレビを中心に、歌手・テレビタレント・俳優と幅広いエンターティナーとして活躍してきたジェリー藤尾。歌手としての代表作はなんといっても「遠くへ行きたい」ということになる。NHK『夢であいましょう』で紹介されてヒットに至った永六輔と中村八大による傑作は、時代を超えたスタンダードナンバーとして今も愛され続けている。最近では2016年に亡くなった永六輔の葬儀の際に歌われ、参列者の涙を誘った。6月26日は今なお現役で歌い続けているジェリー藤尾の誕生日。1940年生まれの氏は今日で79歳になる。

NHKアナウンサーの父とイギリス国籍の母との間に生まれたジェリーは、終戦後に生誕の地である上海から日本へ引き揚げてきたが、世間の風は冷たく、言葉の壁やその外見から差別を受けたという。母が早くに亡くなるなど不幸な家庭環境も手伝い、いつしか愚連隊の用心棒を務めるようになっていた。そんな彼を荒んだ生活から救ったのは、次第に興味が増していった音楽だった。バンドボーイとなってジャズ喫茶に出入りする様になり、プレスリーのナンバーなどを披露していたところをマナセプロダクションにスカウトされて1958年に芸能界入り。“水原弘とブルー・ソックス”のシンガーとして日劇ウエスタンカーニバルで初舞台を踏んだ後、1961年には「悲しきインディアン」や「ダニー・ボーイ」を歌って東芝からレコードデビューを果たした。これは『悲しき60才(ジェリーを囲むユカイな仲間)』という、同名の大映映画のサントラ盤ともいえる10吋LPに収録されたもので、最初のシングル盤は「石松野郎の唄/地平線がギラギラ」になる。カップリング曲は新東宝で撮った主演映画『地平線がぎらぎらっ』にちなんだもの。逆に少し後、1963年に東映で『ジェリーの森の石松』が作られたのは歌の影響もあったかもしれない。

俳優としては1961年に黒澤明監督の大作『用心棒』出演の栄誉に浴している。歌手よりも役者仕事の方が先行しており、デビュー作となった1959年の『檻の中の野郎たち』(東宝)をはじめ、同年の『独立愚連隊』(東宝)、1960年には『足にさわった女』(大映)、『竜巻小僧』(日活)など、『用心棒』に至るまでには既に10本以上の作品に出演していた。1963年に公開されたミュージカル時代劇『真田風雲録』(東映)は作品の評価も高い。石原裕次郎主演の『銀座の恋の物語』に出演した1962年には、NHKの人気番組『夢であいましょう』で5月の<今月の歌>となった「遠くへ行きたい」が大ヒットして、人気はお茶の間にまで拡大する。番組で紹介された数多くのヒット曲の中で、1961年の坂本九「上を向いて歩こう」1963年の梓みちよ「こんにちは赤ちゃん」と共に最も知られる一曲であろう。カップリングの「インディアン・ツイスト」がまた揮っており、「遠くへ行きたい」とは180度異なるノヴェルティタイプのリズム歌謡で、AB面のギャップに驚かされること必至。1962年に東宝で公開された映画『若い季節』の中で、躍動しながら快唱するシーンは必見である。なお、ジェリーが歌った『夢であいましょう』の<今月の歌>では、1963年8月に紹介された「誰かと誰かが」も優しさが滲み出た佳曲で、もっと評価されていい作品だ。

「遠くへ行きたい」がスタンダードナンバーとして定着した要因として、同名のテレビ番組が作られたことも大きい。『夢であいましょう』の構成を担当し「遠くへ行きたい」を作詞した永六輔はこの歌に並々ならぬ思い入れがあったとおぼしく、1967年にTBSで始めたラジオ番組『どこか遠くへ』(後に『誰かとどこかで』へ改題)のテーマ曲に使用した。さらにその後、1970年10月に日本テレビ系でスタートした紀行番組『遠くへ行きたい』(製作:読売テレビ)のテーマ曲に起用されたことで、時代を超えるナンバーとなる。令和となった現在も続く長寿番組は、当初は永六輔の単独出演で放送がスタートし、タイトルも『六輔さすらいの旅・遠くへ行きたい』だった。やがて芸能人や文化人が交替で旅する様になってからは、テーマソングも初期のデューク・エイセス版に始まり、小林旭、赤い鳥、上條恒彦、森田公一とトップギャラン、ダ・カーポ、岩崎宏美、さだまさし、森山良子ら、様々な歌手によって歌い継がれながら現在へと至る。1976年には本家・ジェリー藤尾のシングル盤が再発され、1979年にはCBS・ソニー(現・ソニーミュージック)からの新録音盤もシングル・リリースされた。近年でもますます磨きがかかった入魂の歌唱を時折聴かせてくれる。いつまでも古びないこの名曲を口ずさみながら、知らない街を歩いてみたい。

ジェリー藤尾『悲しき60才(ジェリーを囲むユカイな仲間)』「石松野郎の唄/地平線がギラギラ」「遠くへ行きたい」「誰かと誰かが」ジャケット撮影協力:鈴木啓之

【著者】鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。