ピークアウト経済【2】三重苦の渋難、重荷に マンション市場

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替え建設業の景況感DIの推移

 止めどなく大型ダンプが出入りし、工事は最盛期を迎えていた。

 総戸数1320戸。東急東横線日吉駅から徒歩9分の好立地に建設中の「プラウドシティ日吉」。昨年12月に先行する180戸を売り出すとほぼ即日完売、この住戸を含む1棟目の362戸は、この6月で8割超が契約済みとなった絶好調物件だ。

 「非常に高い評価を得ている。東京都心部では手に入りにくい3LDKで70平方メートル超という贅沢(ぜいたく)な広さが好評のようだ」。開発販売を手がける野村不動産の担当者は胸を張る。

 2022年度にも相鉄線との相互直通運転が開始され、乗り入れることになる日吉駅から徒歩圏の大規模開発とあって注目を集めていた。

 先行きについても「戸数は多いが問題ない」(野村不)と強気の姿勢だ。

 モデルプランでは3LDK(約76平方メートル)の間取りで6199万円。4LDK(約83平方メートル)だと7799万円となっている。第1期(362戸)の平均単価は1坪(3.3平方メートル)当たり平均290万円。「今や坪400万円、500万円という物件さえ出てきた」(不動産業界関係者)という東京都心部の高止まりしたマンションと比べ割安感がある。

 ただ、7千万円台後半の物件の場合、月々の返済例では頭金約800万円で借入金額は7千万円。35年ローンで月々の支払いは18万円に上る。

◆高止まり

 「首都圏の高額化した大規模物件では、即日完売はほぼなくなったが、プラウドシティ日吉の売れ行きは好調だったようだ」。こう解説するのは、マンション市場の動向に詳しい不動産経済研究所の松田忠司主任研究員だ。

 マンション市場全体をみると、年間供給戸数は16年を底に回復し、18年は8万戸を超えた。だがこの拡大基調にも歯止めがかかる見通しという。

 同研究所が今月17日に発表した5月の首都圏新築マンション発売戸数は5カ月連続で減少し、前年同月比10.4%減の2206戸だった。

 松田主任研究員はこの動きについてこう説明する。

 「18年末にかけて在庫がたまり、この販売を今年に入っても続けている」

 こうした鈍い動きから同研究所は、19年の供給戸数について約8万戸と予測、全国ベースでは前年割れを見込んでいる。

 人口減少が続き、同時に働く人の実質賃金は上がっていない。18年の非正規雇用比率は38%を超え過去最大となった。

 「1坪300万円前後という価格の物件となると、ターゲットは世帯年収1千万円以上となる。買える世帯は確実に狭くなっている。例えば夫婦でローンを組めるようなケースが対象になっている」(松田主任研究員)。

◆噂の物件

 首都圏を主戦場とするマンション業者の間でその動向が注視されている噂(うわさ)の巨大物件がある。

 通称「晴海案件」。

 東京都中央区晴海にある、東京五輪の選手村跡地の約18万平方メートルを住宅開発する計画で、その供給戸数は5632戸に上る。

 計画人口約1万2千人の超大規模再開発プロジェクトだ。賃貸住宅1487戸に加え、14~18階建ての低層棟、さらに地上50階建てのタワーマンションが2棟建設される。

 入居開始は2023年3月だが、今年7月にも第1期の発売が開始される。

 「これだけの供給量があると周辺への影響は計り知れない」と松田主任研究員はみる。

 「東京近郊でマンション購入を考えている人の多くは検討するだろうし、抽選結果を待つなどして、買い控えも起きかねない。横浜や川崎の中心部では売れ行きに影響が出るかもしれない」

 晴海案件が中小・中堅不動産会社から恐れられているのは国内大手10社による共同開発であるという点、そしてその立地の利便性や景観の割に、周辺相場より割安で供給されるという見立てがあるからだ。松田主任研究員によると1坪300万円を下回ってくる可能性があるという。

 横浜や川崎の中心部も含め、割高で購入した土地に、割高な建設費を投じて建設している物件にとって、超大規模かつ割安な「晴海案件」は厳しい対抗物件となる。野村不動産も共同開発の一角に名を連ねているが、出足が絶好調だったプラウドシティ日吉も例外ではなく、限られた購入層の奪い合いに晒(さら)されることになりそうだ。

◆悪循環

 三重苦。不動産業界からはそんな苦境が漏れ聞こえる。

 土地の高騰、建設費の高止まり、金融の厳格審査-。

 建設現場で働く人が足りず人件費は上がり続けている。県内の建設会社幹部は「人が足りなくて受注しきれない工事もある。人件費を引き上げているがそれでも人が集まらない」と嘆く。不動産会社にとっては仕入れた土地に建物を建て住戸を売却しその資金を当てに次の土地購入資金を確保していく。

 土地の仕入れが割高で、建設コストがかさみ、融資の金利が高ければ、販売価格に直結し、売れ行きが鈍化し在庫がだぶつくという悪循環に陥りかねない。

 経済の循環は生き物のように無数の事象によって互いに影響し合い好不況を繰り返している。13年以降続くとされる「景気拡大」の裏で、行き過ぎや腰折れの懸念は常に付きまとっている。