訪日客対応「連携」「分散」が鍵 日銀が全国事例調査 夜の飲食ツアー、自動運転の送迎実験など

 日銀は、今月公表した地域経済報告(さくらリポート)で、インバウンド(訪日外国人客)需要に対応する全国の企業や自治体の事例をまとめた。個性的な取り組みが並び、関係者間の連携など地域活性化に向けた課題も指摘。交流人口拡大を図る本県にも参考になりそうだ。
 調査対象は宿泊や飲食の観光関連企業・団体、行政機関など約1300先。その結果、最近の需要獲得策の特徴として、(1)受け入れ環境整備の進捗(しんちょく)(2)スマートフォンアプリや会員制交流サイト(SNS)の活用強化、決済や口コミを通じ収集したビッグデータから需要動向を分析する「デジタルマーケティング」導入(3)「コト消費」拡大を受けた取り組みの積極化-の3点を挙げた。
 (1)は多言語対応や外国人スタッフ採用、Wi-Fi整備、キャッシュレス対応が目立った。京都府の寺は、さい銭箱にQRコードを設置し、参拝客がスマホで読み取ると1円単位でさい銭ができる。鹿児島県の宿泊業者は、客室数を減らす代わりに拡張。富裕層の長期滞在を取り込み、人手不足を踏まえ労働集約的スタイルから転換を図った。
 本県からは、15カ国語に対応する24時間無料コールセンター(県など運営)、遊技業者が宿泊業に参入する事例が紹介された。
 (2)は個人旅行が浸透する中、岡山県や島根県松江市などが、SNSの影響力が大きい海外のインフルエンサーを起用し観光情報を発信。大阪府のタクシー業者は海外で浸透しているスマホ配車アプリの導入が奏功した。
 (3)は地方で懸案となっている耕作放棄地や空き家の活用が目を引く。福岡県の業者は、数年前に閉店した会席料理店を改修し高級古民家宿泊事業を始める。大阪府では空き家を客室に改装し、周辺の銭湯を風呂、飲食店を食堂に見立て「日本人の日常を体験できる」と売り込み人気に。長野県松本市では、侍の衣装を貸す殺陣(たて)体験サービスを始めた。神戸市では夜イベントを強化、在住外国人ガイドと立ち飲み屋やバーを楽しむツアーを実施している。
 これらの事例を踏まえ、日銀は地域活性化への課題として、関係者間の「連携」、都会から地方への「分散」、ごみ・渋滞問題など住民や環境との「共生」の3点を指摘した。
 このうち「分散」については、2次交通の整備を重視した。那覇市や山口県下関市は、自動運転による送迎サービスの実証実験を実施。仙台市では、空港と市内観光地を結ぶ定額制タクシーを割安運行している。
 日銀長崎支店の平家達史支店長は「いずれも特長ある“とがった”取り組み。本県は同様の事例があっても、規模が小さかったり、情報が訪日客に届かず認知度が低かったりと、生かせていない」と惜しむ。
 特に他県と比べ、官と民、地域間の連携不足、2次交通整備の遅れを懸念。日本版DMO(観光地域づくり推進法人)としての活動を今後本格化させる長崎国際観光コンベンション協会に期待する一方、「どれだけ長崎市から権限と予算を任され、迅速に動けるか。経済団体や観光業界が協会任せで動きが鈍いようだと厳しい」とみている。

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