JOC山下新会長が向き合う〝非常事態〟

五輪招致の買収疑惑、ガバナンス…

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山下泰裕氏(左) 竹田恒和氏(右)

 礼に始まり礼に終わる。記者会見の最初と最後にすっと起立して頭を下げる日本オリンピック委員会(JOC)の新会長、山下泰裕氏の姿を見て、日本武道を象徴するそんな言葉が浮かんだ。約1時間の会見。実直な物言いながら、発せられる言葉は「ただ事」ではなかった。東京五輪開催の1年前、自身のトップ就任は「非常事態」「異常」なことと表現。決心するまで知人から「絶対逃げるな」「腹をくくれ」と励まされたと明かし、要職を兼任することに「間違っても『山下の独裁』と言われないようにする」。退任した竹田恒和氏の贈賄容疑について不備だらけとされるJOCの調査報告の妥当性、再検証の可能性について、筆者が尋ねると「現時点では(再検証は)頭にない。必要があれば(見直す)」と含みを残し、別の記者がさらに突っ込めば「これまで選手強化本部長に専念していて、(自分は)正直勉強不足、ご指摘あれば今後勉強します」と潔く答えた。1980年モスクワ五輪で米国と共に日本もボイコットしたことに触れ、「(当時は)日本のスポーツ界の力が弱かった。次世代のアスリートにしてはならないことだ」と政治とスポーツ界の間合いについても持論を語った。メディア対応のツボを心得た山下氏の今後に注目したい。(共同通信=柴田友明)

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 ▽五輪招致の買収疑惑

 日本オリンピック委員会(JOC)は27日に評議委員会、理事会を開催、山下泰裕氏が竹田恒和氏に代わりJOC新会長に就任した。山下氏は先週21日に全日本柔道連盟(全柔連)の会長に再選されたばかり。その会合では要職を兼任することに負担が大きいのではないかと懸念の声も上がった。2020年東京五輪・パラリンピック開催まで約1年を控えた大切な時期。この慌ただしい人事に至ったきっかけは五輪招致に関する買収疑惑で竹田氏を聴取したフランス司法当局の「本気度」だった。今年1月15日に行った記者会見で竹田氏は疑惑に対する自らの潔白を一方的に主張しながら全く質疑に応じず退出したことが猛烈に批判された。歴代最長の約18年にわたってJOCトップを務めたが、続投の道は絶たれた。竹田氏は3月20日に会長退任を表明した際も疑惑については「フランス当局による調査中」という理由で具体的に何も語らなかった。

 山下新体制ではこの疑惑に対する説明責任も問われることになる。すでにJOCは違法性はないとの報告書を明らかにしたが、内容があまりに不十分であると指摘されている。フランス司法当局は当初捜査していたロシアの組織的ドーピング隠蔽に関与した事件で、セネガル人のラミン・ディアク前国際陸連会長と息子のパパマッサタ氏について「収賄と資金洗浄の罪で起訴することを決めた」(ロイター電)と報じられた。竹田氏はこのパパマッサタ氏に対して五輪招致を巡り贈賄容疑で本格的に捜査される対象になっている。

ロス五輪 男子柔道無差別級で金メダルを獲得し、足の負傷で2位のラシュワン氏(右)の手をかり表彰台に上がる山下泰裕氏=1984年8月11日

 ▽ガバナンス

 さらに、この難問に加えて山下氏がJOCと全柔連のトップを兼任することが「利益相反になる」との批判もある。競技団体に交付金を分配する組織の会長が与えられる団体の長も務めることは「ガバナンス」面で問題ありとする考え方だ。過去において、兼任した事例はあったが、「もはやそういう時代ではない」(五輪関係者)との指摘もある。山下氏は今回の会見で全柔連の会長を続けることがJOC会長を引き受ける条件だったとこれもまた正直に話している。

 さまざまな政官からの圧力、影響力から、いかにJOCの独立性を守っていくかも大きな課題だ。冷戦のまっただ中、かつてモスクワ五輪(1980年)で米国とともに日本が不参加の道を選んだ際に涙したのは現役時代の山下氏らであった。山下氏のある知人は「たぐいまれなるマネジメント能力がある。どの分野でも発揮できる、ある意味、人生の達人だ。彼ならこの難局を乗り越えられる」と語った。

1980年4月、モスクワ五輪ボイコット問題で日本の有力選手らが参加を求めた。涙ながらに訴えるレスリングの高田裕司氏(右)、柔道の山下泰裕氏(左)=東京・岸記念体育会館

【東京五輪招致疑惑】世界反ドーピング機関の第三者委員会が国際陸上競技連盟のディアク前会長らによる汚職を調査した過程で浮上し、英紙の報道で表面化。東京の招致委員会がシンガポールのコンサルタント会社に送金した2億円超の一部が、当時国際オリンピック委員会委員だったディアク氏の息子、パパマッサタ・ディアク氏に渡り、票の買収に使われた疑いがあるとしてフランス司法当局が捜査中。招致委理事長だった日本オリンピック委員会の竹田恒和氏は疑惑を否定し、外部調査チームが違法性はないとの結論を出した。