子育て支援の課題に対する政策は?。元モー娘。市井紗耶香氏 4人の親としての出馬

4人の子供を持つ元アイドル

「モーニング娘。」元メンバーである市井紗耶香氏が次期参議院比例区候補として立憲民主党から出馬する。通常国会の会期末である6月26日に同党の常任幹事会で正式に決定し、市井氏は院内で記者会見を行った。

同時刻に官邸で開かれた総理大臣会見に参加したため、こちらは欠席せざるを得なかったが、人気アイドルから若くして母親になった市井氏が何を語るのかに関心があった。なんといってもこの少子化社会で、2歳から14歳まで4人の子供を持つ存在は極めて貴重。そうした母親の目には、さぞかし様々な問題が見えているはずと思っていたのだが……。

どのような子育て支援が必要なのか

問題意識が感じられないのだ。何よりも参議院出馬の動機がわからない。市井氏は「いまの日本が本当に子育て世代に優しい社会になっているのか、疑問に思うことがたくさんある」と主張するものの、子育て支援に関して具体的にどのような施策を行うべきかと問われると言葉に詰まる。ただうつむいて眉を顰め、「育児、教育、家族のために総合的に政策に取り組むべきだと思っている」と述べるのみ。

また育児以外に何をテーマにしたいのかという質問については、「子育てを中心に子供たちの未来を明るくする」と、これまたまったくのピント外れの回答だった。

もっとも市井氏とて政治を甘く見ているつもりはないのだろうが、これでは仮に当選しても即戦力にならない。

出馬の際には主張を展開した先輩たち

たとえば2010年の参議院選で当選した三原じゅん子氏は自身の経験から、子宮頸がんの撲滅を訴えた。また2016年当選組の今井絵理子氏には聴力障碍を持つ長男がいるが、聴力障碍者関係の活動を通じて山東昭子元参議院副議長と知り合い、出馬したという経緯がある。もっとも彼女たちとて批判が皆無ではないが、それでも国政を志す動機が見てとれるし、三原氏の演説や今井氏の手話(今井氏は手話を用いながら選挙演説をした)はそれらを裏付ける説得力があった。

もっともこうした資質の問題は市井氏だけの問題とは限らない。「筆談ホステス」として知られる前東京都北区区議の斉藤里恵氏は5月7日、立憲民主党から出馬すると発表した。斉藤氏は障碍者やシングルマザーの代表として国政にそのような声を届けるという決意を語ったが、筆者の「国政の障碍者政策でどのようなものが欠けていると思うのか」という質問には直接答えず、周辺部の概論を述べた後に「電車のアナウンスがわかるようにしたい」とのみ回答。しかしそれはまず電鉄会社が行うべき問題であるし、すでに車中には電光掲示板で行先などが記されていることが多い。

なぜ立憲民主党は「政策を語れない」候補を擁立するのか。もちろん中には元RAG FAIRの奥村政佳氏のように、保育政策をやりたくて保育士の資格まで取得した候補もいる。奥村氏は芸能プロに所属するが、「両立は難しいと思うので、文化人の枠でお世話になりたい」と事実上の芸能活動の停止を宣言。政治に専念する姿勢が見えている。

だが市井氏にはそれも見られない。「まずは議員になるための活動にしばらくは専念したい」と言いつつも、「それから先のことに関しては改めて党や家族と相談して決めたい」と芸能界に未練を残す。

これからの取組みに注目

市井氏は会見の冒頭で「私がいま、最も自らの気持ちを捧げ、自らの時間を注いでいるのは子育てです」と述べたが、それならばなぜ子育てに専念しないのか。議員になれば多くの時間を公務に使わなければならず、子供たちの生活も当然に激変する。子供を持つ女性議員はそうした犠牲を払いつつも、子育てと同価値の目標のために社会を変えようと政治に勤しんでいる。もちろんその他の“副業”などできるはずもなく、視野の隅にも入っていないはずだ。

元アイドルなら知名度があり、女性であるためにパリテ(選挙における候補者男女均等)も満たすと考えているのなら、それは大きな間違いだ。与党であっても野党であっても、国民は「働く能力があり、働いてくれる議員」を求めている。選挙は人気投票ではないし、そうあってはならない。

 

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