至福の時間

 最初におわびを。対馬市出身の棋士、将棋の佐々木大地五段(24)の活躍ぶりを紹介した24日付の本欄で、肝心の佐々木五段の勝ち星をうっかり、一つ少なく誤記していた。正しくは「ここまで11勝」。申し訳ありませんでした▲さて、気を取り直して…。今季12勝目を期して臨んだ羽生善治九段との一戦。棋界の第一人者と若手の成長株の公式戦初対局は、期待通りの大熱戦になった▲朝の9時に始まった対局は終盤戦でどちらも局面を打開できない「千日手」が成立して無勝負、指し直しに。2局目の終局は、日付をまたいだ午前0時44分だった。結果は羽生九段の勝利▲プロの「読み筋」について、興味深い話を聞いたことがある。どんなに先まで読んでも、相手が予想外の手を指せばその蓄積は台無しだが、かと言って、読みの通りにゲームが進んでいれば安心か、といえば、そうとは限らないというのだ。なぜなら、読み筋が一致するのは「相手もその進行に自信を持っている証拠だから」▲想像してみる。読みを外されては頭を抱え、読み通りに進めば、時に首をかしげ、ため息をついて自分を疑う。ふと顔を上げると、盤の向こうで羽生さんも同じように▲佐々木五段にとって、とても苦しく、しかし、とても収穫の多い、幸福な時間だったに違いない。(智)

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