柴又女子大生殺害事件 犯人による痕跡がこれだけあるにもかかわらず未解決となった“三大コールドケース”の一事件

三大コールドケースと呼ばれる事件がある。いずれも警視庁が解決のため犯人を追い続けている事件のことで、世田谷一家殺害事件、八王子スーパーナンペイ射殺事件、柴又女子大生殺害事件の三つである。

今回歩いてみたのは、柴又女子大生殺害事件の現場である。

事件が起きたのは、一九九六年九月九日のことだった。この日はどんよりとした空模様で、朝からしのつく雨が降り続いていた。

被害者の小林順子さんは、上智大学の学生で二日後にアメリカ留学を控え、この日、父親は出張中、姉は仕事のため外出していて、母親と二人で家にいた。母親は午後三時五十分頃パートに出かけたこともあり、ひとり留守番をしていた。彼女がひとりとなってから、約五十分後の午後四時三十九分、家から火の手があがった。その時すでに、彼女は何者かによって命を奪われていた。午後六時ごろになって火は消し止められ、消防隊が家の中に入ると、二階の六畳間で順子さんの遺体が発見されたのだった。

果たして、誰が彼女を殺めたのか。犯人は順子さんの部屋にあったトラベラーズチェックや預金通帳にも手をつけず去っていたことから、物盗りの犯行とは考えづらかった。さらに不可思議な点もある。一階の部屋から旧一万円札一枚が無くなっていたことや、普段父親が使っているスリッパが、二階の部屋の入り口に揃って置かれていたことである。

犯人は、僅かではあるが人物の特定に繋がる痕跡を残していた。ストッキングで縛られた順子さんの両足は「からげ結び」という造園業や土木業、和服の着付けなどで使用される特殊な方法で縛られていた。さらに彼女を縛った粘着テープには三種類の犬の毛が残されていた。順子さんの家では犬を飼っておらず、犬の毛は犯人が犬に囲まれて生活していることをうかがわせていた。

犯人は順子さんを殺害する際に、揉み合いとなり、刃物で怪我を負い、布団やマッチ箱に血液を残していたのだが、科学捜査の進歩により、事件から十八年が経った二〇一四年には、両方の血液から同一のDNA型が検出されたのだった。それは有力な証拠であったが、残念ながら警視庁のデータベース保管されている五十八万件に一致するDNA型はなかった。

順子地蔵(筆者撮影)

柴又女子大生殺害事件が起きた現場は、閑静な住宅街の中にあった。最寄の柴又駅から、現場まで歩いて向かったのだが、当然ながら陰惨な事件を想像しづらい雰囲気に包まれていた。

現場となった家は取り壊されて、消防団の格納庫となっている。道路に面した場所には、被害者を弔うため順子地蔵が置かれている。

この事件も世田谷の事件と同じく、犯人のDNAや犯行に使ったロープなど犯人に結びつく証拠が押収されている。最近では、過去に迷宮入りした事件が、DNA鑑定により、解決したケースも少なくないことから、犯人逮捕につながることを願わずにはいられない。

現場から駅への帰り道、町内会の掲示板には、情報提供を求める順子さんの写真がのったチラシが貼られていた。その悲しげな顔を見ると何ともいたまれない気持ちになったのだった。(取材・文◎八木澤高明)

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