「日本人はオカマとしてもお金を払ってくれる!」 出張のついでに歌舞伎町で売春するのが楽しみだったフィリピン人経営者を現行犯で逮捕・勾留

法廷に姿を見せたメルビン・バーナム・ジュニア(仮名、裁判当時35歳)の外見はどう見ても女性にしか見えませんでした。しかしフィリピン国籍の彼女の性別は男性です。

フィリピンで化粧品販売の会社を経営している彼女は、化粧品やビタミン剤等の品物の買い出しのために過去にも5回来日しています。今回も短期滞在資格で来日していた彼女でしたが、品物の買い出しの他にも目的がありました。

犯行現場は歌舞伎町の路上、時刻は21時過ぎでした。
通行人の男性の一人を見かけた彼女は、
「かわいい感じで優しそう」
と思いました。そして同時に次のようにも思いました。
「セックスをしてお金を貰いたい」
彼女はすぐにその男性のそばに行き声をかけました。
「ヤりたいですか?」
「ヤりたいって何?」
「セックス。ホテル代込みで二万」

彼女が声をかけた男性は私服でパトロールをしていた警官でした。運が悪いことに、この時は売春行為取締強化期間ということになっていてパトロールが強化されていたのです。

裁判では彼女のしたことは売春の勧誘ではなく売春類似行為の勧誘ということになっていましたが、彼女はその場で迷惑防止条例違反の現行犯で逮捕となりました。

歌舞伎町路上での客引き、そして売春。いかにも危険な目に遭ってしまいそうな行為ですがそういうことはなかったようです。弁護人との受け答えを聞く限りでは彼女は楽しんで路上に立っていた様子がうかがえました。

ーー日本に来た目的は何ですか?
「元々は品物の買い出しでした」
ーーこれまで何回か来日してますけど、以前にも売春をしたことはありますか?
「何回かはありました」
ーー今回あなたがやったこと、犯罪になるって知ってましたか?
「はい、知ってました」
ーーフィリピンでも犯罪になるんですか?
「はい。売春に関することは禁止です」
ーーなんで犯罪だとわかっててやったんですか?
「最初はするつもりじゃなかったです。だけど、初めてした時に楽しかったしお金払ってくれました。フィリピンではオカマとセックスしても誰もお金を払ってくれません。日本人はお金を払ってくれるし、楽しかった」
ーーもし次に日本に来ることがあったら、その時はもうやらないですか?
「今回、逮捕されて勾留されて…それがとても怖かったです。もうやりません。やりたくないです」

彼女は売春に関してではなく、勾留されることに恐怖を感じていました。
裁判が開かれた時点で帰国予定日を1ヶ月以上過ぎていますが、携帯電話の使用を禁じられていてフィリピンの家族に連絡することも出来ないそうです。自業自得とはいえ、言葉もほとんどわからない異国で勾留される彼女の恐怖や心配は相当なものであったと思います。

家族にはおそらく警察から事の顛末は知らされているとは思いますが、さぞかし心配していることでしょう。せめて少し電話で話すことぐらいは許してあげてもいいのではないでしょうか?

彼女にくだされた判決は罰金30万円でした。未決勾留日数が罰金額に算入されたため、実際には1円も払う必要はありません。裁判終結後、彼女は入国管理局に身柄を引き渡され強制退去になる見込みです。

夜の歌舞伎町を歩いていると、路上で声をかけられることはよくあることです。

今回取り上げた裁判の被告人のようにある意味では無邪気にやっている人もいれば、様々な事情を抱えて路上に立つことになった人もいます。
時折「浄化」という、違法行為をしているにせよとても人間に対して使う言葉ではない名目を掲げて取締りが行われることもあります。行政や警察はただ彼女らを排除することのみを考えて、摘発や危険な目に遭うリスクを背負ってでも路上に立ち続ける彼女たちの背景に目を向けていないように思えます。

2020年のオリンピックに向けて今後はよりいっそう摘発は厳しくなることが予想されます。それでもおそらく、歌舞伎町の路上から彼女たちの姿がなくなることはありません。(取材・文◎鈴木孔明)

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