被爆者らの紙カルテ電子化 “ビッグデータ”構築に期待 15カ月で7万人分 完了まで10年予定

紙カルテをスキャナーで読み取る電子化作業=長崎市魚の町、日赤県支部

 2009年から電子カルテを導入している日赤長崎原爆病院(長崎市茂里町)は、1958年の開院から2008年まで約50年間の全患者の紙カルテを保管しており、電子化作業を進めている。完了には約10年かかる。全患者の実数は現時点で不明だが、被爆者だけで5万人を大きく超える見通し。原爆被爆者のまとまった診療データとしては最大規模となる。非被爆者を含め長期にわたる健康状態を分析できる“ビッグデータ”として、原爆被爆の健康影響研究に役立つことが期待されている。
 「診療を同時期に受けた被爆者と一般患者を比較できることが最大の利点」。作業を指揮する同病院の相川忠臣・検体検査管理医は、こう強調する。
 紙カルテは、被爆者か否かを問わず全患者の外来、入院の診療経過や検査結果を記録。電子化しデータベースを構築すれば、発病傾向を調べたり、被爆時の年齢、被爆距離と病気との関連を詳しく探ったりすることができるようになる。
 さらに、被爆者と非被爆者との間で傾向を比較することで、被爆による影響をより正確に見極められる。実際に、電子カルテ導入後の09~15年のデータを使った同病院の研究では、思春期前(0~9歳)に被爆した人は、前立腺がんの有病率が一般患者に比べ特に高いことが分かった。
 長崎原爆の被爆者に関しては、放射線影響研究所が1950年以降の約3万8千人の寿命調査を実施。長崎大原爆後障害医療研究所は、78年に被爆者データベースを構築し、長崎市や県が提供した約14万人分の健診結果などを収録している。しかし、カルテからは、さらに詳細な情報の分析が可能。同病院は生体組織診断による病理記録や組織標本も全て保存しており、研究への活用が可能だ。
 同病院の被爆患者数は把握できている83年以降だけで約5万3千人。58~83年の数や非被爆者数は現時点で分かっていないが、かなりの数に上るとみられる。相川氏は「サンプル数が多く詳細なほど有効な分析が行える。長期のデータが充実すれば、将来的にはがんに限らず、被爆から長い期間たって発症する晩発性障害全体の研究や、被爆2世への影響の解明にも役立つはずだ」と話す。
 電子化は厚生労働省の事業を受託する形で2017年度に開始。紙カルテは製本された状態、患者別のファイルなどで保管されており、18年1月から1枚ずつスキャナーで読み取る作業を進めている。昨年度までの約15カ月間で被爆者、非被爆者計約7万人分の作業を終えたが、手付かずの紙カルテはまだ大量に残っている。
 同病院の平野明喜院長は「長期に被爆者を診るため先人たちが保存してきたカルテ。しっかりと活用を図りたい」としている。

「被爆者と一般患者を比較できることが最大の利点」と話す相川氏=長崎市茂里町、長崎原爆病院

© 株式会社長崎新聞社