Q1からQ2に向けてひっくり返ったような予選結果。タイの難しさと悲喜交々の各陣営の手応え《スーパーGT500クラス予選あと読み》

「このタイのサーキットは、速いときは速いんですけど、なにか少し外したときの外れっぷりが他のサーキットよりも大きく感じますね。その原因が風の強さや向きの変化なのか、気温の変化なのか、トラックコンディションの変化量が日本のサーキットより大きいのか。なにかセットアップを外した時の感度のようなものが、日本のサーキットよりも大きいのかなと思います」

 RAYBRIG NSX-GTで予選Q1を担当した山本尚貴が話すように、スーパーGTのシリーズ戦で唯一の海外戦となる第4戦タイの予選結果はQ1とQ2の上位8台の順位が大きく入れ替わる結果となった。もちろん、Q1とQ2でタイヤ選択を変えたチームもあれば、セットアップ変更を行ったチームもある。ドライバーが攻めきれなかったりまとめきれなかった部分もあるだろうが、予選Q1で8番手のWAKO’S 4CR LC500がQ2ではトップになり、Q1でトップだったARTA NSX-GTがQ2では8番手大きく順位が入れ替わったのはなぜか。第4戦タイの予選をドライバーのコメントで振り返る。

「正直、大きなミスはありませんでした。それでも野尻(智紀)選手のQ1トップタイム(1分23秒466)と比べると、僕自身がいいタイムを出せていない(1分23秒809)のは事実なので、非常に残念です」と予選を振り返るのはARTA NSX-GTの伊沢拓也。ランキング4位でウエイトハンデ(WH)40kgを考慮すると、予選8番手は悪くはないグリッドだが、Q1でチームメイトの野尻がトップタイムをマークして期待が高まっていただけに、伊沢の落胆も大きい。

「プレッシャーがあって気負いすぎてミスしたわけでもなくて、野尻選手と比べて、ふたつちょっと遅いコーナーがあったくらいです。明日はしっかりとポジションを取り返さないといけないと思います」と伊沢。ランキングを争う予選4番手のau TOM’S LC500、予選10番手のMOTUL AUTECH GT-Rとどのような関係になるのかが、明日の勝負どころとなる。

 同じホンダ勢では、冒頭のRAYBRIG山本尚貴が予選Q1で「9コーナーでかなりオーバーステアが出てしまって、Q1突破が難しくなるような、ちょっとやっちゃったかなと思う大ミスをしてしまったんですけど、結果として他のコーナーでタイムを稼げたのでギリギリQ1を通れました。ですけど、そのミスがなかったとしてもトップの野尻選手のタイムには届かなかったですね」と予選を振り返る。

 RAYBRIGは今回、持ち込みのセットアップを外してしまい、その修正に大きな時間を使うことになったのが響いたようだが、Q1突破に間に合ったのはさすがチャンピオンチーム。「朝のリザルトからは、とてもQ1を突破できるとは思えなかったので、根本的なバランスを改善してQ2まで残れたのは、本当によくチームが立て直してくれたなと思いますし、JB(ジェンソン・バトン)もなんとか踏ん張ってアタックしてくれたと思います」と、山本はひとまず予選7番手に安堵する。

 予選Q1で5番手から、予選Q2で2番手に順位を上げたのがWedsSport ADVAN LC500の国本雄資だった。ヨコハマタイヤはこのタイの路面と相性がよく、リアライズコーポレーション ADVAN GT-R、MOTUL MUGEN NSX-GTとともに優勝候補の一角に挙げられていた。その状況での2番手獲得は、さぞ嬉しいだろう……と思いきや、国本は開口一番「悔しいです」と沈痛な面持ちで話始めた。

「朝、走り出しでのタイムは悪くなかったので、しっかり合わせ込めれば行けるのかなという手応えがありました。専有走行で坪井(翔)君が初めてこのタイでニュータイヤを履いたんですけど、アタックが攻めきれなくてタイムが伸びなかったですけど、それぞれのタイムをまとめれば専有走行の時点で上に行けることが分かっていました」と予選までの手応えを振り返る国本。

「ですので、ポールを狙うのなら今回だなと意気込んでいたのですが、獲れませんでした。アタックはきっちり走れてやりきった気持ちはあるんですけど、これまでも予選で2位が多かったので悔しいです」。それでもWedsSport ADVAN LC500は決勝に向けては「自信がある」とのことで、明日はWAKO’S 4CR LC500とのレクサス同士の優勝争いとなるのか、見どころになる。

 今回の予選では、Q2の顔ぶれはレクサスLC5004台、ホンダNSXが2台、ニッサンGT-Rが2台の構成となった。GT-RはWH22kgのCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rが3番手を獲得したが、優勝候補のカルソニック IMPUL GT-RがQ1ノックアウトとなり、エース車両MOTUL AUTECH GT-Rも10番手と精彩を欠いた。

「わずかコンマ2秒、Q2に届かなかった。うまくまとめれば行けるかなと思いましたが、シビアですね。アタックでうまくまとめられませんでした」とMOTUL GT-Rのロニー・クインタレッリが話すが、GT-R陣営としてはマシンのセットアップが全体的に予選で合っていなかったようで、実績から見ても、このタイは相性がよいサーキットとは言い難い。

 だが、ランキング2位のMOTUL GT-Rにとっては、ランキングトップのZENT CERUMO LC500が予選最下位となってしまっただけに、決勝はチャンスとなる。

 そのZENTはGT500で今回唯一、燃料リストリクターが一段階絞られてストレートスピードが苦しいことに加え、フリー走行の専有走行時にフロントのフロア(通称チンスポイラー)が製品不良が原因で壊れるという突然のトラブルでセットアップがやり直し状態になってしまった。そのため、破損修復直後の予選Q1でセットアップがまったく確認できないまま立川祐路がアタックしてスピンを喫してしまうという、まさに悪夢とも言える予選日になってしまった。

 ポールを獲得したWAKO’S 4CR LC500が万全の準備で臨むのとは対象的な1日となってしまったZENT。そしてホンダ陣営、ニッサン陣営の巻き返しはあるのか、シーズンの折り返しとなる第4戦タイが、後半戦の行方を暗示する重要な一戦になりつつあるのかもしれない。

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