“伝わっていない”世界遺産

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録されて1年になるが、その歴史や価値は世界に十分に伝わっていない。そんな意見に触れた▲〈どんな迫害だったのか、信者たちの思いや苦しみは…。国内には多くの関係書籍が出回っているが、英語で書かれた良書は少ない。世界と日本では理解度に大きなギャップがある〉▲長崎純心大人文学部講師、サイモン・ハル氏の研究テーマは「長崎のキリスト教史」。十数年前、英国から福岡に留学した際、長崎の歴史の複雑さに引かれ、この地を研究の舞台に選んだ▲ハル氏は、幕末・維新期の「浦上四番崩れ」を例に挙げる。流刑地で拷問にあった信者から体験を聞き取った浦川和三郎司教(1876~1955年)の各種著書は、当時の真実に迫る有名な史料。だが、正確な翻訳がないために海外では研究者にすら知られていないと▲構成資産を訪れる観光客は今も後を絶たない。日本政策投資銀行の発表では、訪日外国人客の認知度は世界遺産効果もあり、九州の主要観光地7カ所の中で「長崎」がトップだった▲長きにわたる禁教、弾圧に耐え、信仰をつないできた民衆の歴史の奥深さは観光パンフレット程度では伝わらない。訪日客にどうやって、より深く知ってもらうか、知恵を絞りたい。(真)

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