被害に遭う前に逃げてほしい~広島FMが「ひろしま防災ドリル 防災ハンドブック2019」を発行~

災害時には、情報がとても大切になってくる。しかし、私たちはその情報をきちんと理解し、行動できているだろうか。
「いざというとき、ラジオ放送をより役立ててもらいたい」と、広島のラジオ局が「防災ドリル」を制作した。制作チームのリーダーに、冊子に込めた思いを聞いた。

広島エフエム放送(広島FM)では、2006・07年、10年、11年、16年と、過去にも防災ハンドブックを発行してきた。「災害が起こったときどのような対応をすべきか」「家族で話し合おう」など、毎回テーマに沿って制作している。11年9月に発行されたハンドブックには東日本大震災関連の内容を、2016年3月発行号では平成26年8月豪雨について盛り込んでいる。

7月1日発行の「ひろしま 防災ドリル」は、広島FMアナウンサーで、広島県「みんなで減災」推進大使でもある磯貝修也さんが制作チームのリーダーとして完成させた。A5判、全48ページフルカラー。約7万部を広島FM本社受付(広島市南区皆実町1-8-2)や広島県内フレスタ各店等で配布する。

表紙には「危険」を連想させる赤色を採用。

「2016年発行の『私だけの防災ハンドブック』では書き込み式を採用。読み・書くことで完成するスタイルが好評だったため、今回はさらに楽しく、家族で話し合いながら読み進めてもらおうとドリル方式にしました。ドリル方式ですから、問題を解いていかねばならない。解くために家族間で話題が生まれ、判断力が付く。そして、被害に遭う前に『逃げて』ほしい。そんな思いを込めて制作しました」と磯貝さん。昨年の西日本豪雨後、『逃げてもらうためにはどうしたらよいか』ということが常に念頭にあったそうだ。

普段、電波での発信を行っているラジオ局が、なぜ紙媒体である「冊子」を発行することになったのだろう。

「災害が起こりそうなとき、起こったとき、ラジオで発信できることは、実はとても限られているんです。例えば『避難勧告が出ました』という情報も、広島市中区の一部、としか言えない。本当は『広島市中区の●●地区の土砂災害警戒区域』まで言うべきなのですが、時間が足りないのです。 『特別警報ってラジオで言ってるけど、それって何?』では、せっかく大切な情報をキャッチしても生かされない。放送を聞いた人は、どのようにすべきなのか、そのための知識をつけてほしい、その行動を促す一冊です。この防災ドリルを使って、災害を自分事として考えてもらえたらと思います」

ドリルの中には、「約何割の人が避難したでしょう」「避難のタイミングとしてもっとも多かった時間帯は?」という、平成30年7月豪雨に即した問いや、「トイレを1回流すのに必要な水の量は」と被災後の生活を具体的にイメージさせる問い、そして磯貝さんが一番こだわった「あなたはいつ逃げますか」という記述ページもある。防災に関する専門家や、防災士のコメント、被災者の体験談なども掲載され、読み応えのある充実の一冊となっている。磯貝さんは「家族で一緒になって話をしてもらいたい。書くことは、話し合うことにつながると思うんです。また、ぜひ書き込んでもらいたいのが、住んでいる地域の自主防災組織の担当者や町内会長、自治会長の連絡先。日ごろから地域の人たちとコミュニケーションを取っておくことは、いざというとき必ず力になるはずです」と力を込める。

約1年前。広島FMでは7月6日の大雨予報を受け、前日の5日の早い時間から災害対策を講じていたという。6日(金曜)には週末の報道体制を整え、5分番組はローカルニュースに、通常の番組も一部変更することにしていた。週が明けた9日(月曜)からは通常の生放送は行うものの、通常より少しトーンを落として、リスナーのための情報発信に努め、リスナーに寄り添うことを一番大切に、放送を続けた。

広島FMの社員の中には、公共交通機関の混乱により通勤に苦労した人などもいたそうだ。それでも全員が業務にあたった。耳を傾けるだけで情報が収集できるラジオ放送を待つリスナーのために。

冊子内には、広島FMパーソナリティーの近藤志保さん、神原隆秀さんが被災地で語ったインタビュー記事もある。

「災害が起こったときは、必要な情報を流すのですが、そんな時だからこそ『正しい情報源からの情報』であるかどうかことを必ず確認しています。例えばリスナーから「●号線が通れない」という情報提供があったとして、そのまま流すのではなく日本道路交通情報センターに確認をとるなど。我々も、今すぐにでも発信したいのですが、何よりも正確さを大切にしています」と話す磯貝さん。

私たちは、ラジオから流れる正確な情報を、どう受け止めればよいだろう。
いざというときに、ラジオの情報が最大限生かせるよう、防災ドリルに取り組んでみよう。一冊解き終わったら、きっとあなたの防災力は上がっている。いざというとき、流れてくるラジオ放送が、今までよりもっと生かせるはずだ。

 

いまできること取材班

取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)
写真 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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