世界遺産登録から1年 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」 地域に広がる 活気と笑顔 観光客1.6倍 全資産で増加

 

 世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本の12資産)は4日、登録から1年を迎える。登録後、構成資産の来訪者は大幅に増え、地域に活気と笑顔をもたらしている。幾多の苦難を乗り越え「人類の宝」となった潜伏キリシタン遺産だが、子や孫の世代に確実に受け継いでいくには課題もある。
 県内の世界遺産は、2015年に登録された「明治日本の産業革命遺産」に続き2件目。登録までの道のりは平たんではなかった。「政治決着」で後続候補の産業革命遺産に先を越されたり、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)に内容見直しと推薦取り下げを促されたりと、曲折をたどった。その道程は、禁教政策下で2世紀以上も信仰の灯をともし続けた潜伏キリシタンの姿と重なる。
 県によると、登録後の昨年7月~今年5月、無人島の「中江ノ島」(平戸市)を除く11資産を訪れた人は計約88万3千人。前年同期(計約55万9千人)の約1.6倍に増えた。観光施設としても著名な「大浦天主堂」(長崎市)は約1.3倍となる約47万7千人を集めた。「原城跡」(南島原市)も約3倍の約4万8千人に伸びた。「春日集落」(平戸市)は約20倍の約2万2千人に急増。全ての資産で来訪者が増加した。
 ただ登録は「ゴール」ではない。構成資産の中には一見してその価値が伝わりにくいものも少なくない。観光客だけでなく、地元住民や若い世代に各資産の「物語」を理解してもらわなければ継承はおぼつかなくなる。過疎高齢化が進む地域も多く、担い手確保は喫緊の課題だ。
 保全と活用を両立させながら、どうやって「宝物」を輝かせ続けるか。県世界遺産課の桑原(くわはら)恵課長は「資産がある地域に関わる人を増やしたり、地域間交流を活発にしたりして構成資産を未来につないでいきたい」と話す。

【大浦天主堂(長崎市)】幕末の1865年、2世紀ぶりに潜伏キリシタンと宣教師が出会った「信徒発見」の舞台となった大浦天主堂。国内現存最古の教会=長崎市南山手町
【原城跡(南島原市)】江戸幕府の禁教政策を強める契機になった「島原・天草一揆」の古戦場である原城跡=南島原市南有馬町
【春日集落と安満岳(平戸市)】信仰解禁後も「かくれキリシタン」が信仰を続けた「平戸の聖地と集落 春日集落と安満岳」=平戸市春日町

© 株式会社長崎新聞社