スポーツ界のデータ分析が活発化 卓球界のデータ分析事情を探る

写真:加藤美優(奥)と石川佳純(手前)/撮影:ラリーズ編集部

スポーツの世界で、「データ分析」という表現を聞く機会が増えてきたように思う。

聞き馴染みのない専門用語や数字の羅列にとっつきにくさを感じるかもしれないが、スポーツの世界でいうデータ分析の目的は至極単純である。チームや選手が試合に「勝つ」ことだ。

相手のウイークポイントや戦い方の傾向を探り、自分たちがより強くなるためにすべきことを探る。コーチやチーム戦略スタッフが古くから行ってきたことである。そこにデータという客観的な目線を加えることで、より正確でより高レベルな戦術を練ったり、選手のトレーニングに活用するのだ。

データ分析はこれまで知ることのできなかった情報を提供してくれるもので、我々ファンにとっても新しい知識を与えてくれる貴重な情報源となるはずだ。

卓球界にもデータ分析活用の流れは訪れているのか

野球やサッカーと違い、卓球は原則的に1対1で試合を行うスポーツである。さらに、相手の戦型によって戦い方を大きく変える必要があるのも卓球の特徴だ。こういった観点から考えると、卓球界にデータ分析を持ち込むことは難しいように思えるかもしれない。

だが、日本卓球協会では海外選手を含め、過去数十年間のワールドツアーなどの試合動画をデータベース化して保管しているようだ。

状況別の得点確率やサーブレシーブの傾向・特定の相手選手に対する失点パターンなど、ありとあらゆるデータを蓄積し、試合や練習に活用しているというのだ。

日本卓球協会強化本部長の宮崎義仁氏も、データベースを活用したエピソードを語っている。データベースを参照した際、張本智和YGサーブを全く使用しないことに気づき、取り入れるよう勧めたというのだ。

その後、張本はYGサーブの練習に明け暮れ、見事に自分の武器にした。

昨季のTリーグでも、データ分析の活用が勝利に繋がった事例があった。

2月10日に行われた日本ペイントマレッツ木下アビエル神奈川、第5マッチのビクトリーマッチまでもつれたこの試合最後の対戦カードは、マレッツの加藤美優対アビエルの石川佳純。この日の第2試合と同じカードとなったビクトリーマッチ、第2試合では0-3で石川が勝利したが、この第5試合では一転、加藤が勝利を収めた。

この劇的な勝利の陰にはデータ分析があったという。なんとこの日の第2試合の映像をその場で分析し、第5試合の戦術に活用したというのだ。このスピード感ある対応が勝利の一因となった。

スポーツの世界でのデータ分析は、近年急速な発展を遂げている

テレビ中継を観ていても、最近は色々とデータが表示されるケースが増えてきている。

野球では、1球毎に球速・球種とボールの回転数が表示され、ホームランが出ると打球速度や角度が表示されることも珍しくない。

取得できるデータの種類や量が増えることによって、そこから入手できる情報量も増加する。スコアブック1つで対戦相手の情報を記録していた時代があったことを思えば、あらゆる角度からの映像とその分析結果を得ることができる現代では、劇的な変化があって当然というものだ。

さらに野球界では、「セイバーメトリクス」に代表される統計学を駆使した分析も活発化している。これまで評価しづらいものとされてきた「守備」に関わる能力を数値化することなどに成功し、選手の能力を正しく評価する新たな指標を生み出している。野球ファンの間でもデータ分析の価値は徐々に浸透し、プロ野球を楽しむツールの1つとして数字や指標に触れるファンも存在する。

選手の技術や精神力が勝敗を大きく左右することは当然の事実だが、データ分析の活用も勝利の鍵を握っている

選手やチームが勝利のためにデータ分析を進めるのは勿論だが、我々卓球ファンも、数字や指標を学び、新たな卓球の楽しみ方を知ろうと試みてみるのも面白いかもしれない。

文:石丸眼鏡

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