『ゴールデン・リバー』 何気ないシーンが冴える異色の西部劇

(C) 2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.

 前作『ディーパンの闘い』でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞したフランスの名匠ジャック・オーディアールが、英語で撮った異色の西部劇だ。1851年、ゴールドラッシュに沸くオレゴンで、権力者に雇われたスゴ腕の殺し屋兄弟が、黄金を見分ける化学式を発見した科学者を、連絡係の情報を頼りに追う。ところが、黄金に魅了された4人は手を組み…。

 オーディアールといえば、ヨーロッパの難民問題を扱った社会派作品『ディーパン~』も、障害を抱えた女性のラブストーリーだった『君と歩く世界』でも、どこかフィルムノワールが香る持ち味を発揮していたが、本作も西部劇らしい痛快さやヒロイックな陽性の世界観とは程遠い。だから、撃ち合いなどのアクションもそつがないけれど、彼の演出が一段と冴えるのはやはり何気ないシーンの方だ。

 例えば、歯磨きを通じて心を通わせていくくだりや、物語の展開とは直接関係ないクモを食べて体調を崩すシーン。あるいはテントを静かに揺らす風やタバコの煙、煙、煙…。オチとしては正反対ながら、『雨月物語』を思わせるラストも素晴らしい。そして、35ミリ・フィルムで撮影された、夜のシーンの透徹した美しさ。4人の男の友情とサスペンスフルな展開。本作はむしろ、西部劇の魅力を兼ね備えたフィルムノワールと言っていい。★★★★★(外山真也)

監督:ジャック・オーディアール

出演:ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド

7月5日(金)から全国順次公開

© 一般社団法人共同通信社