社説:米朝首脳会談 実務協議 軌道に乗せよ

©株式会社京都新聞社

 トランプ米大統領が軍事境界線を越えて北朝鮮の地を踏み、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と三たび顔を合わせた。

 現職の米大統領が北朝鮮側に越境したのは初めてだ。電撃的な会談は「思いつき」が発端で、ツイッターで呼びかけたという。

 即興外交に驚かされるが、来年の大統領選に向けた「パフォーマンス」との指摘もある。

 ただ、行き詰まっていた米朝対話が再開するのは歓迎できる。

 休戦状態にある朝鮮戦争以来の敵国にあえて入ることで事態を打開し、外交成果にしたいとの考えがあるとみられる。

 2月末にハノイで行われた、2回目の会談の際も、トランプ氏は内政の失点を外交でカバーしたい思惑を見透かされていた。

 単なる政治ショーではなく、本当に歴史的な一歩となるかどうかは、今後の交渉次第である。

 一方の金氏にとって会談の誘いは制裁緩和への手がかりとなる。「渡りに船」だったに違いない。

 だが、双方の隔たりは大きい。北朝鮮の全核関連施設の完全廃棄を主張する米国に対し、北朝鮮は非核化と制裁解除を同時並行で進めることを求めている。

 米朝間で非核化の定義すらできていないのが実情だ。

 会談後、トランプ氏は数週間内に非核化の実務協議を再開すると明らかにしたが、北朝鮮側の反応は出ていない。協議が動きだすかどうかは不透明だ。

 ハノイの再会談が決裂した要因は、実務協議の積み上げを欠いたことだった。同じことを繰り返さぬよう、実務協議を軌道に乗せ、具体的な合意づくりを目指さなくてはならない。

 2度の米朝首脳会談を経ても、北朝鮮側は実質的な非核化措置を一切取っていない。金氏には完全な非核化をする意思はないとの見方が多い。

 ストックホルム国際平和研究所が発表した推計によると、北朝鮮の核弾頭製造能力は今年1月時点で20~30個。1年間で10個ほど増えたという。

 実務協議に応じない一方で、親書を送るなどトランプ氏に的を絞った外交を続けてきた。米政権内の対北強硬派と引き離す狙いもあるのだろう。

 日本政府は交渉進展に期待している。安倍晋三政権は圧力一辺倒から「前提条件なしの対話」へとかじを切ったが、北朝鮮は応じる気配をみせていない。

 直接対話の実現へ、米の背中を押す働きかけが必要だ。 (京都新聞 2019年07月02日掲載)