我が家工房- 「俺らが見たい怪獣がいないから作る」という初期衝動!

えっ!我が家が工房に?

──我が家工房設立のきっかけは?

山崎:まず自分と床山皇帝との出会いからですね。8年前、平成ガメラのオールナイトイベントに参加した友人から「『ガメラ2』上映後にひとりでスタンディングオベーションしてた若者に声を掛けたから会ってやって欲しい」って言われたんです。そんなヤバいヤツ、絶対に連れてくるなと言ってたんだけど(笑)。

皇帝:当時は専門学生で、自由制作の課題で怪人の着ぐるみを作ってました。

山崎:あの頃は、飲み会でも着てきましたからね。馬力・高円寺ガード下店に(笑)。でも別に自主映画とかは撮っていなくて、ただ着ぐるみを作るだけで満足だって言うんです。

皇帝:だから普段使いするしかないんです。でも手がハサミだから、自転車のブレーキも掛けられない。危ない。

山崎:“お洒落着”感覚。逆に僕は自主映画こそ撮っていたけど、せいぜい怪人のマスクを作るくらいが限界で、ヒーロースーツもありもののパッチワークだったりしたんです。それで、造形に興味のある後輩とかも巻き込んで一緒に映像を作るようになって。メンバー的にも、ここが工房の原点。あと、彼の作りかけの怪獣を庭で匿ったりもしていました。卒業制作でデカいヤツを作ったはいいものの、置き場所がないから捨てるしかないと。で、いつか完成させようとブルーシートだけ掛けてね。でも彼も就職したりして、そのまま7年放置。

──7年間は“我が家倉庫”だったと。

山崎:最初は家族から苦情もありました。『劇画・オバQ』みたいに「ねぇ、あの怪獣いついなくなるの?」とか言われていたんだけど、7年も経つと風景に溶け込むんですよ。いつしか何も言われなくなった(笑)。そのうちに皇帝も仕事を辞めて暇になり、一緒に『モンスターハンター:ワールド』とかやってたんだけど、すぐに飽きちゃって。で、「そろそろアレ完成させてみたら?」と。

皇帝:もっと多くのモンスターが実装されていたら、『モンハン』に飽きることもなく、我が家工房はなかった。

山崎:もとが出来てたってこともあるけど、1週間くらいで形になったよね。

──普段はこの怪獣たちはどれぐらいで完成するもんなんですか?

山崎:最初の1ヶ月で形が出来て、そこから色をつけたりディテールを詰めたりで2ヶ月ぐらい。仕上げは人海戦術になってくるんで、若い子たちからやり甲斐を搾取しながら完成させます。日芸の後輩とか美大の学生だから「タダで造形の勉強ができるぞ!」って、気兼ねなく(笑)。

──造形にあたって主導権を握るのはどちらなんですか?

山崎:9割は皇帝です。ただ彼は、仕上げの細かい作業とかが出来ないって言うんですね。ウソですよ、やりたくないだけだから。まぁ、実際に彼の仕上げは雑なんですけどね。マスキングも大きく穴が空いていたり(笑)。

皇帝:仕上げはインテリの仕事ですから。

山崎:その時点で、もう次の怪獣に興味が移ってるわけですよ。

──意見の衝突はないんですか?

皇帝:衝突したらこっそりやります。

大内:気づいたら山ちゃんが許してないパーツが付いてたり(笑)。

山崎:なんか嫌な予感がして工房に降りてみたら、絶対にやめろと言ってたパーツを付けているところに出くわしたこともありました(笑)。まぁ、そこまで付けたいなら仕方ないかと許しましたけど、どうしても仕上がりに納得できないときは、僕が自分で修正することもあります。彼も完成したものには執着しないので、何も言ってこないし。

──(笑)。ほんと仲良いんですねぇ。

山崎:正直、お互いにここまで趣味が合う人間がいないと思うんです。100パーセントではないんですが、自分と同じように、『ゴジラの息子』と『ゴジラ対メガロ』が一番好きなゴジラ映画っていう人には初めて会ったんですよ。怪獣の好みもかなり近い。会話にしてもデザインにしても、彼のセンスは信用してます。

──大内さんはどういう経緯で?

大内:山ちゃんとは大学で同期なんだけど当時は全く交流がなくて、最近になって家が近いってことがわかって遊びに来るようになりました。造形には興味がなくて、いつもただ見ているだけなんですけど。関わるようになった一番のきっかけは、僕がお世話になっている映画の美術監督さんが自身の工房を閉めるからって「何でも持ってっていいよ」と言ってくれたので、棚やら塗料やらを全てトラックでそのまま我が家工房に持ってきたことですね。調達係!

──「何でも持ってっていいよ」の“何でも”をそのまま受け取ってしまったんですね(笑)。

山崎:夏の魔物(※大内が所属していたバンド)でいろいろあった時期なんか、特に理由もなく工房にやってきていましたよ。で、たまにスマホを見ては苦い表情を浮かべたりね(笑)。

ポンズとの出会い

──今回、共演するザ・リーサルウェポンズとはどういう経緯で?

山崎:現実逃避でネットサーフィンをしてるとき、たまたまた『80年代アクションスター』のMVを見つけて、こりゃいいやと工房のみんなに紹介したら、みんなハマっちゃって。いろいろ調べてたら、ちょっと前にバズった『都立家政のブックマート』のPVと同じ人がやってることに気付いたんです。都立家政は中野区だし、意外とご近所さんなんじゃないかと思って、Twitterでそれとなく呟いてみたら、AI-KIDさんが遊びに来てくれたんですよ。ちゃんとあのヘルメットも持って(笑)。で、僕らの映画に音楽をつけてもらう代わりに、彼らのMVにうちの着ぐるみを貸し出したり、金銭のやりとり一切なしの円満な関係を築くに至りました。『きみはマザーファッカー』のMVも、工房の屋上で撮ったんですよ。

──工房の屋上って、要は山崎さんの自宅屋上ってことですよね(笑)。

山崎:天気が異常に良かったんで、白人のサイボーグ・ジョーは日焼けしてしまって大変でした。そういや急に「『ひるこ』、スキ?」って訊かれて、聞き違いかと思ったら、本当に『ヒルコ/妖怪ハンター』のことでびっくりしましたよ。あと、座頭市も好きなんだよね。

大内:でも一番好きな日本映画は、黒澤明の『生きる』らしい(笑)。アメリカでは隠キャだったみたいなんですが、日本人からするとちょうど良い温度の陽キャですね。

──今回のイベントはどういった内容になりますか?

山崎:すべてに生身の人間が入ってるわけではないですけど、これまでに作った着ぐるみを全部見てもらえるようにします。ポンズと一緒にやる怪獣ショーは初めての試みですね。映像と違って、失敗したらカットを掛ければいいってもんでもないし、どんな動きにするか考え中です。そもそもウチの着ぐるみは、見栄え重視で作ったものだから、そんなに頑丈じゃないし、動きやすくもないんですよ。その代わりラテックスを使ってないので、腐らず長持ちはする。映像のために作られるウルトラ怪獣なんかとは、そこが違うんです。

──大きいフィギュアみたいな感覚ですね。

山崎:いろんな人から「映画でも撮るんですか?」と訊かれるんですけど、特に具体的な目標があって作り始めたわけでなく、単純に作りたいから作ってるという感覚なんです。最近、こういうケバケバしい怪獣がいないよね、でもカッコいいよねっていう。

皇帝:俺らが見たい怪獣がいないから作る。そういう意味では本当に学生以下の初期衝動だけです。

山崎:そういえば、オーケンさんだけが「アートだからそれでいいんだよ」って言ってくれたんです。自分から”アート”って言葉はなるべく使いたくないけど(笑)、でもそういうことなんですよね。

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