<隠れた名盤> 米倉利紀『analog』 まるで恋の教科書を読むよう

米倉利紀『analog』

 通算23作目となるオリジナル。近年は、ミュージカルや朗読劇、など活動の幅を広げているが、本作を聴くとあらためて上質なシンガーソングライターだと聞き惚れてしまう。

 全12曲、恋の終わりを回想する『NOTHING LEFT』や『幻』から始まり、そしてまた恋をしては別れを経験するけれど、そのすべてが『大切な日々』だとすべてを肯定して終わるという曲順が秀逸。色気のある歌声と綺麗な言葉遣いで恋における様々な状況を表現する様子は、まるで恋の教科書を読むようだ。

 その中でファンキーな『SOCIAL NETWORK SERVICE』が異色かつ傑作。「競い合う衣食住 気にする数字」に溺れる人々を描くことで、その後のまったりと温かい『そっと、ずっと』や、メロウなバラードの『ココロ』などアナログの魅力が尚更に心に浸透する。

 他にも、『君は僕の大切』にて、ステディな関係だからこそ「一番の友達」として気遣うべきと、また『ぬくもり、やさしさ』では、失った日々に感謝しつつ一歩踏み出すべきと教えられる。時代は急速に進化すれど、結局、体温を感じさせる関係性こそが人生の基本だとも教えられた気分だ。

 地声と裏声がスムーズな男性歌手としても稀有で、もっと多くの人に聴いてほしい逸材。本作を聴けば、デジタルの中にこそアナログな魅力を見出そうという意識が芽生えるはず。

(徳間ジャパンコミュニケーションズ・3000円+税)=臼井孝

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