町田樹さんが語る氷上スポーツの未来とは?「日本氷上スポーツ学会第1回研究大会」詳細リポート!

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町田樹さんが語る氷上スポーツの未来とは?「日本氷上スポーツ学会第1回研究大会」詳細リポート!

スケート競技、アイスホッケー競技、ソリ競技、カーリング競技など氷上で行われる幅広いスポーツを対象とする、日本氷上スポーツ学会。その第1回研究大会が6月29日に都内で行われ、町田樹さんが出席しました。その模様をリポートします。

まず、日本氷上スポーツ学会会長の小野島真さんがあいさつ。自身の経験から感じた学生氷上スポーツの現状とこれからの発展について、そして日本氷上スポーツ学会発足の経緯と、今後の展望を説明しました。

続いては「一般報告」。船橋整形外科市川クリニックの阿部愛さんによる「国内フィギュアスケート選手の外傷・障害発生の状況とその傾向について」では、選手たちへのアンケート調査から分かった、けがの発生状況について報告。過去1年間で痛みがあった選手は全体の約70%で、足部、足関節、腰部、膝に多く、また女子アスリートの疲労骨折の因子として、ビールマンスピンの実施や体重の増加、骨密度の低下を招く無月経状態などが示唆されるとし、適切なトレーニング環境の整備、女子アスリートの疲労骨折の3因子への対策、障害予防プログラム(柔軟性、筋力強化、動作指導ほか)などの予防対策が急務であると話しました。

また、慶應義塾大学の廣澤聖士さんによる「画像認識技術と機械学習を用いたフィギュアスケートジャンプの回転不足判定予測への試み」では、データ収集によって飛躍的に向上した画像認識技術をフィギュアスケートの採点に活用することを提案。現在行われている研究内容と、実用化へ向けての課題などを発表しました。質疑応答では、町田さんが発言。最初に「私もAIによる判定に可能性を感じている」と期待を寄せた上で、人間が行ったジャッジを基に機械学習を行うという現在の取り組みの問題点について意見を述べました。

そのほか、明治大学の針ヶ谷雅子さんによる「大学スケート研究会の30年の活動報告」、ANAグループの水原元一さんによる「氷上スポーツ(スケート)学科設立について」、宇都宮共和大学の渡邊瑛季さんによる「日本におけるスピードスケートの普及形態と課題―小学校とクラブの結びつきに着目して―」、味の素株式会社の片山美和さんによる「食とアミノ酸のコンディションについて」の研究発表も行われました。

最後に行われたのは、アイスホッケー女子元日本代表選手の高嶌遥さん、元スピードスケート選手で長野県茅野市役所職員の矢島友喜さん、そして町田さんによる「氷上スポーツの普及に関わる現状と課題」についてのディスカッション。ファシリテーター(議事進行)は日本氷上スポーツ学会理事の坂井寿如さんが務めました。その一部をご紹介します。

── 2020年の東京オリンピック後の日本のスポーツ界について、どう考えますか?

高嶌「現在は政府や経済界からの支援も増え、国民の関心も高まり、スポーツに対するいい風が吹いています。すごくいい時期だからこそ、20年の東京オリンピック、22年の北京冬季オリンピックが終わった後も続くような、強化のシステムの構築を考えることが大事だと考えます。1人でも多くの子どもたちにアイスホッケーやフィギュアスケート、スピードスケートがしたいと思ってもらえるような環境作りが必要です。またアイスホッケーに関しては、子どもたちの両親が安心してアイスホッケーに取り組める環境を作っていくことが大事だと思います」

矢島「東京オリンピックを見た子どもたちが氷上スポーツをやりたいと思えるようなシステム作り、施設の建築が大事だと思います」

町田「社会学系データでも明らかになっていますが、スポーツ報道や社会的露出度はオリンピックに向けて急激に上がった後にガクッと落ちる傾向にあります。楽観視はできません。気運が高まっている波に、どれだけ氷上スポーツが乗れるかが大事だと思います。これまではトップアスリートの育成に重点が置かれていましたが、これからは育てるだけではなく、いかに“見る環境”を整えるか、“支える人”たちを育てていくか、という部分にスポーツ振興のフォーカスが当たっていくべきだと考えます。フィギュアスケートは現在、トップスポーツとして非常に勢いがあり、それに伴い、“見るスポーツ”としても隆盛しています。では一方で、“健康競技”としてどれだけの人がスケートをやっているか。私は競技者時代、ジプシーのように各地で練習してきましたが、地方に行けば行くほどスケートリンクは閑古鳥が鳴いていました。アスリートにとっては空いているので非常に良いのですが(苦笑)、どうやって採算を取っているのだろうと、高校生の時から感じていました。趣味のスポーツ、健康スポーツとしては、フィギュアスケートはまだまだ冷え込んでいます。大事なのは、長期的な将来を見通して、(競技を)支えていく人をいかに作っていくか。東京五輪(東京オリンピック)の後、社会のスポーツに対するまなざしが低くなっても、勢いを維持させることのできる人材を育てることが大事だと考えます」

── 茅野市では、一般の方が氷上スポーツを楽しめる環境を整備する取り組みをしていますか?

矢島「スポーツ推進計画というものがあります。市民一人一人が生涯を通して楽しめるスポーツを見つけ、健康寿命を延ばしていくための施策をしています」

── 若い女性は運動する人・しない人に、はっきりと分かれる傾向があります。

高嶌「私はスケートが盛んな(北海道)苫小牧市出身で、学校にスケート場がありました。誰もがスケートができる環境にあったというのが、アイスホッケーに取り組んだきっかけです。性別に関係なく、身近にスポーツができる環境があるか・ないか、ということで大きく違ってくるのかなと思います」

── 26年の冬季オリンピックの開催地がイタリアのミラノ、コルティナダンペッツォに決まりました。夏季と冬季で比べると、冬季の競技は競技人口がなかなか増えない状況にあると思います。町田さん、解決策はありますでしょうか?

町田「私はフィギュアスケートのことしか言えませんが、フィギュアスケートの競技人口は増えていますが、一方でスケートリンクの数は減っています。つまり、1施設あたりの競技者人口が高まります。日本のローカル試合、例えば関東の競技会では参加選手がかなり多く、早朝から夜まで競技をやっています。(中略)つまり今フィギュアスケートの競技者人口をさらに高めても、アスリート教育の現場は機能しません。むやみやたらに競技人口を増やすのではなく、インフラであるスケート場から整備していかなければいけないと思います」

── 矢島さん、施設の存続について教えてください。

矢島「少しの修繕でも億単位のお金がかかります。人口が集中しているところなら良いのですが、過疎地域などでは施設に向けられる目は厳しいと思います」

町田「気になっていたのですが、400mトラックのスケートリンクの場合、一般利用者は滑れるのですか?」

矢島「レーン分けするので、一般利用者は一番短いコースを滑っていただいています」

町田「スケートリンクには、どうしても公共性が求められます。これは聞いた話ですが、スケートリンクに求められる公共性は三つあって、一つ目は選手(競技)、二つ目はタイプ(どう使えるか)。そして三つ目は市民サービスで、いかに一般のお客さまが利用できる施設なのか、ということが重要だということです。(青森)八戸市では400mトラックのリンク(YSアリーナ八戸)が新設されていますが、そこは、ある日はコンサートが行われたり、ある日はスケートとは違う競技が行われたりと、多種・多目的に使える施設です。そういう形で茅野市のリンクも使えたらいいと思うのですが…(矢島さんの方を見ながら)どうですかね…?」

矢島「当市のリンクは八戸市と違い屋外リンクなので、2月末には閉まってしまいます。夏場は空き地にしておくともったいないので、今はゴルフの打ちっぱなしコースになっています」

町田「そういう事例があるのですね。勉強になりました」

── スピードスケートはオリンピックでメダルを獲得しています。トッププレーヤーのサポートについて教えてください。

矢島「私よりも会場にいらっしゃる方々の方が詳しいと思いますが、スピードスケートではオランダのコーチ陣を招聘しています」

── フィギュアスケートではどうでしょうか?

町田「フィギュアスケートは、順調に競技成績を残せています。一方で、海外に練習拠点をおけるような選手は氷山の一角なので、ミドルクラス、ロークラスが競技活動をできるような環境を整えなければいけない。彼らが大会に普通に参加できて、ちゃんと自分の実力が試せる、そんな大会運営を構築していなければいけないと思います。…私、アイスホッケーに興味がありまして…(高嶌さんの方を見ながら)アイスホッケーには日本リーグがありませんが、女子アイスホッケーはどのような状況ですか?」

高嶌「女子はスマイルリーグというのが数年前に立ち上がりました。ただリーグといっても試合数が多くなく、そこが大きな課題になっています」

町田「やはりスケートリンクという点でいえば、アイスホッケーの盛り上がりが不可欠だと思っています。フィギュアスケートやスピードスケートのような個人競技となると、トップの競技会は各国の持ち回りになるので、それを見たければ海外にいかなければいけない。しかし、リーグスポーツであれば、野球やサッカーのように恒常的にそこでトップの競技が行われる。ということは、施設も増設されていく。アイスホッケーが人気のアメリカでは数多くのスケートリンクがあります。アイスホッケーさんのこれからの頑張りが、これからの氷上スポーツの鍵を握っていると思います」

── 世界での競争力のある選手の育成について、どう考えていますか?

矢島「私の周りでは、競技者もジリ貧の状態で、小学生の大会も半日で終わってしまいます。それだけ競技者が減っているということです。中学生の大会においても、小学校でやっていない子が突如、中学でスケートを始めるわけもなく、なかなか氷上スポーツ、スピードスケートは選んでもらえず、競技人口が減っている状況です」

──フィギュアスケートは競技人口が増えていますが、指導者はどのような状況ですか?

町田「日本スケート連盟のデータでは、選手は増えていますが、教育者・指導者は減ってきています。ただ指導者が少なくなってきているから何か問題が起こっているということは、現場レベルではまだないと思います」

── フィギュアスケートでは、オリンピックのメダリストたちが同じコーチに指導を受けていることがよくありますね。それはどういった理由からでしょうか?

町田「有名選手は1カ所に集まりやすいですね。日本でいうと、関西大学、中京大学、明治神宮外苑のスケートリンク…、有能な選手が集まれば切磋琢磨する環境が生まれますので、コーチは偉大ですが、たとえコーチが指導しなくても、恐らく勝手に強化されていくような環境になっていると考えます。例えばカナダのクリケットクラブは、世界中からトップアスリートが集まっています。その中で毎日練習すれば、モチベーションも高まります。そういう環境ですね。指導者という人材を含めた環境が、選手育成の大事なポイントだと考えています」

── 女子アイスホッケーはいかがでしょうか?

高嶌「私が重要だと思っているのは、トップ選手になればなるほど感覚だけではどうにもならない部分があります。そういったところで効果的にトレーニングするためには、研究者たちの専門的なアドバイスが大事になります。それに加えて、選手が競技を引退した後、安心して次のキャリアにスムーズに移行できる環境を整備していくことが、最終的には世界での競争力のある選手の育成に結びついていくと思います。(中略)必ず選手には引退が訪れます。次のキャリアが不安なままだと競技に専念できません」

── スポーツの現場で求められる研究とはどんなものでしょうか?

町田「アカデミックな領域の研究者が現場のニーズを捉えて研究することは大事ですが、実はもう現場に知見を提供できるような研究はたくさん展開されています。その研究をきちんと現場に伝えるということが大事だと考えています。研究者はアカデミックな作法に則った論文を書くことが一番大事な仕事ですが、そこで終わってしまっては選手やコーチはその内容をきちんと理解することができない。内容をかみ砕き、研究の場と現場をつなぐ人、つなぐ取り組みが必要なのではないか、と。どうすれば研究情報にアクセスできるのか、どうやって論文の内容を読み込めばいいのかというリテラシーの能力を現場も身に着けていく。それを研究者がサポートする。そうやって現場と研究の領域が互いに歩み寄ることが大事だと思います。学会も『こんなイベントをしています』とプロモーションをかけたり、発表する側も聴衆に分かりやすくかみ砕いてプレゼンテーションをしたりといった、歩み寄りが大事だと考えています」

矢島「私は研究者ではないので、文字化されているものは口から伝えられることよりも、理解をする能力が必要だと思います。私も読むことは読みましたが、それを生かせたかというと…うーん、というのが正直なところです(苦笑)」

── セカンドキャリアについてのお話をお聞かせください。

矢島「私は大学でしかスケートをやっていなくて、キャリアターンは大学4年の時です。学連(日本学生氷上競技連盟)の仕事も同時にやっていて、大学3年の頃から今後の進路を考え始めまして、インカレ(日本学生氷上競技選手権大会)の開催は地方自治体と密に関わる必要があるので、そこで自治体の職員の方々を見ているうちに『地元でスケートに携わっていけたら』という思いが沸きました。感謝しています」

高嶌「大学を卒業する時に競技を続けるか、すごく悩みました。でも今辞めたら後悔すると思い、スイスとドイツに移籍しました。なぜ日本ではないかというと、日本でももちろんある程度は競技力を伸ばすことはできたと思うのですが、アイスホッケーというのは競技環境が限定的なので、競技を続けながら次のキャリアを見据えた時に、日本ではアイスホッケーを中心に考えると、もう一つのやりたいことができなくなってしまう。自分の将来を長期的に考えた時に、競技力も向上できて、(もう一つの)自分のやりたいことに到達できる可能性のある場所に身を置こうと考えました。ドイツ語も勉強しましたし、スポーツの指導者の講習会にも通いましたし、平行して何をしなければいけないかを考えた3年間でした。どうしてそういうふうに考えられたかというと、チームメートの存在が大きく、スイスの選手も、ドイツの選手も、また高校生の時に日本代表に選出していただいたキャンプにも世界中の選手がいて、どういうふうに競技生活と普段の生活をおくっているのかを身近で感じることができたからです。やはりトップの選手というのは競技力を向上させるだけではなく、次のキャリアを見据えて生活しているということを感じました」

── 私から見て、町田さんはまだまだ競技者として先があると感じていたのですが、次のキャリアに移られたきっかけはなんでしょうか?

町田「なぜ私がそもそも研究者を目指したのか、これを話すとものすごく時間がかかるのでここではお話しませんが…(笑)。競技者としての最後の方は体力的に厳しく、駅で階段を登れないくらいの疲労で、『いつまでもこれはできない』と思いました。でも、競技を辞めた時の選択肢がなければ、競技を続けなければいけない。これは負のスパイラルだな、と。高嶌さんがおっしゃっていたように、次のキャリアが決まっていると、競技者の最後の方に差し掛かった時の力強さが違うと思います。私も精神的な不安を抱えながら競技に取り組んできましたが、次のキャリアが見定まった瞬間に、この競技を最後まで頑張ろうと思えました。競技者をやっていて、引退して、さぁ明日から大学院生です、サラリーマンです、というのは恐らく無理です。競技者がA、セカンドキャリアがBだとして、AとBが交わる準備期間があって、AからBに移行していく。アスリートはその環境を能動的に求めることが大事だと考えます」

高嶌「セカンドキャリアというより“デュアルキャリア”、二つの人生という意味です。人としての人生と、アスリートとしての人生を同時におくっていくことがすごく大事。タイミングではアスリートの比重が高い時もあれば、学業の比重が高い時もある。それはバランスだと思います。先々を見据えて、キャリアをおくっていくということが大事だと思います」

ディスカッションでは、氷上スポーツの未来、アスリートの在り方について活発な意見交換が行われました。最後の「日本氷上スポーツ学会に期待することは?」という質問には、矢島さんと高嶌さんがそれぞれ「スピードスケートは競技人口がどんどん減っています。観戦へのアプローチや、インフラが整っていない市町村に対するアプローチをしていただければと思います」(矢島)、「現場に足を運んでいただき、現場の課題を学会で共有し、その解決策を分野を横断して議論し、現場に還元してほしい。研究の場と現場とがいい関係性を構築していくことが非常に重要な視点になると思います」(高嶌)と回答。そして町田さんは「この学会には、研究分野の横断性、競技種目の横断性、立場の横断性という三つの横断ができる学会であってほしいと切に思っています。三つの円が重なりあって一つの円になるようなところを目指せる学会になれば、学術団体として非常にユニークだと思います。そういうところから新しいアイデアが生まれると考えています」と期待を寄せました。

日本氷上スポーツ学会では、今後も研究大会の開催や日本学生氷上競技選手権大会の会場でのイベントなどを行う予定です。会員の募集もされていますので、ぜひ公式HP(https://jasiss.jp/)をチェックしてみてください。

<関連HP>


【日本氷上スポーツ学会】
公式HP:https://jasiss.jp/

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